<社説>新たな経済対策 小手先ではない議論を


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<社説>新たな経済対策 小手先ではない議論を
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 岸田文雄内閣の支持率が下がり続けている。直近の共同通信の全国電話世論調査で28.3%と20%台に転落した。減税と給付で5兆円という経済対策がさらに批判と不信を呼んでいる。防衛費増税を前にした一時的な減税・給付に過ぎない上に、その効果にも疑問があるからだ。国民は直面する物価高への不安とともに、中長期的な経済政策、国家財政の在り方にも強い懸念を持っている。小手先の政策ではなく、大きな視野に立った国民的議論が必要だ。

 世論調査では、政府が経済対策に盛り込んだ1人当たり4万円の所得税・住民税の減税と低所得世帯への7万円給付について「評価しない」が62.5%に上った。理由は「今後、増税が予定されているから」が最多の40.4%で「経済対策より財政再建を優先するべきだ」20.6%、「政権の人気取りだから」19.3%と続いた。
 総額17兆円台と見込まれる経済対策は、減税・給付以外にガソリン代、電気・都市ガス料金の補助の延長もある。そのほか、児童手当拡充の支給を2カ月早めることや、高速道路割引の2026年度中の拡大など、さまざまな分野のメニューには一貫性がなく、ばらまき感が否めない。
 減税は来年6月実施で、そのほかもかなり先だ。即効性にも規模にも疑問が持たれている。しかも財源の多くを国債発行で賄うことになり、財政の健全化はさらに遠のく。
 経済対策の狙いはこうだ。物価高で消費が落ち込みデフレ経済に後戻りしないよう、来年の賃上げまで減税・給付で消費を下支えし、同時に企業へ投資を促して生産性を上向かせ、賃上げの原資にしてもらう―。そんな絵に描いたようにうまくいくものだろうか。10年かけて失敗しているアベノミクスの繰り返しではないか。
 物価高の大きな要因は円安による輸入物価高騰だ。円安は日本と米国の金利差が原因である。日本が金利を上げられないのは、異次元の金融緩和で日銀が国債をため込みすぎているからだ。アベノミクスからの脱却こそ必要だ。
 また、消費税は所得が低いほど負担が重い逆進性がある。消費税を一時的に下げることは公平であり、景気刺激効果も大きいはずだ。
 生産労働人口が減少し、国内の需要が減少するのは必然だ。一方で子育て支援の拡充、高齢化への対応も求められる。岸田首相は、臨時国会冒頭の所信表明演説で防衛力の抜本的強化を一番に強調したが、現在の経済や財政状況の中では43兆円増には無理があると国民の多くが感じているのではないだろうか。
 防衛力の抜本的強化の是非もさることながら、地球温暖化対策やエネルギーの自給率向上など待ったなしの課題はいくつもあり、財政健全化も先送りすべきではない。課題は山積している。未来を見据えた根本的な議論が必要だ。