<社説>「普天間維持」発言 新基地の公益性破綻した


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<社説>「普天間維持」発言 新基地の公益性破綻した
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 日米間で交わした普天間飛行場の辺野古移設に関する合意の本質が露呈した。新基地建設を強行しても県民が求める基地負担軽減が実現しないことは明らかだ。

 普天間飛行場返還に伴う新基地建設の完成時期について在沖米軍幹部は「早くて2037年になる」と述べ、移設が終わるまでの間は「普天間飛行場は維持される」との認識を示した。
 仲井真弘多元知事が2013年12月に辺野古埋め立てを承認した際に交わした「5年内の運用停止」という約束を政府はほごにし、「辺野古が唯一の解決策」と言い続けている。在沖米軍幹部の発言からすれば普天間の危険性除去はさらに遠のくことになる。
 驚くべき発言はほかにもある。幹部は2800メートルの長い滑走路や広いレーダーの視界など辺野古新基地にはない利点を挙げ「軍事的に言えば普天間飛行場の方がいい」と語った。さらに新基地の完成後も普天間飛行場を使い続けたいかという記者の質問に「軍事的な立場だけで言えばイエスだ」とも述べた。
 辺野古新基地の滑走路が1800メートルで、陸側に高台があることなどを「ネガティブ・ポイント」(難点)として捉えていることも明らかにした。大浦湾側の軟弱地盤についても「修正できなければ影響を与えるかもしれない」という懸念を表明している。
 「軍事的な立場」と断りながら、普天間飛行場の利点を挙げ、新基地完成後の継続使用をほのめかした発言は極めて重大である。辺野古新基地が完成した後も、普天間飛行場の運用を続けるならば、さらなる基地負担増でしかない。
 政府が主張し続ける「辺野古が唯一」や、軟弱地盤改良に必要な設計変更の承認を県に迫る代執行訴訟で政府が掲げる新基地建設の「公益性」は破綻している。
 これらは10月30日に結審した代執行訴訟で争点となるべき事柄でもあった。県は米軍幹部の発言についての政府の見解をただす必要がある。
 新基地完成後の普天間飛行場の継続使用に関しては日本側も示唆したことがある。
 2017年6月の国会答弁で当時の稲田朋美防衛相は「仮定の話」として、新基地建設が進んだとしても「米側との条件が整わなければ(普天間は)返還されないことになる」と述べている。条件とは長い滑走路を用いた活動のための民間飛行場使用など8項目であり、それが満たされなければ返還されないのだ。
 条件が整ったかどうかの見極めには米側の意向が強く働くことになろう。「台湾有事」や「中国の脅威」などを背景に新たな返還条件が浮上する可能性もある。そうなれば普天間飛行場の返還は全く見通せなくなる。
 今回の米軍幹部の発言について政府は見解を示すべきだ。新基地を建設しても普天間の危険性が除去されないのなら計画は撤回するしかない。