<社説>北朝鮮衛星通過 緊張と混乱招く愚行だ


<社説>北朝鮮衛星通過 緊張と混乱招く愚行だ
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 北朝鮮が21日午後10時42分ごろ、弾道ミサイル技術を使用した軍事偵察衛星を打ち上げた。衛星は沖縄本島と宮古島間の上空を通過したとみられる。事前に通報していた期日より前倒しされた。北朝鮮は「打ち上げに成功」と発表したが、日本政府は「衛星軌道投入は確認されていない」としている。

 日本政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)を沖縄県に発した。深夜の緊急避難呼びかけに驚いた県民も多いであろう。沖縄都市モノレール(ゆいレール)は一時、運行を全面休止した。玉城デニー知事は「通告期間前に発射を強行し、沖縄上空を通過するなど、県民に大きな不安を与えたことは大変遺憾だ」と述べた。
 衛星打ち上げは今年で3回目である。ミサイル技術を用いた衛星発射は国連安保理決議違反だ。民間航空機の運航にも影響を与える可能性がある。県民に不安と動揺を与える北朝鮮の軍事行動を見過ごすわけにはいかない。東アジアに緊張をもたらし、県民生活に混乱を招く愚行をただちにやめるべきだ。
 8月の衛星打ち上げ時に始まった防衛省の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の展開が今も続いている。「台湾有事」を名目とした軍備増強に加え、PAC3配備は地域住民にとって、さらなる負担だ。北朝鮮によって引き起こされる緊張激化は県民生活に悪影響を及ぼしている。
 今回の発射に対して日米両国は激しく非難した。韓国は南北間の緊張緩和を図るため2018年に両国首脳で締結した軍事合意の効力を一部停止することを決めた。北朝鮮は大きな代償を払うことになるはずだ。しかし、北朝鮮は「戦争準備態勢を確固として向上させるのに大きく寄与するだろう」と正当化し、早期に複数の衛星を打ち上げる考えを示した。
 日本・米国・韓国の3カ国と北朝鮮、それを擁護する中国・ロシアとの対立が続く限り、北朝鮮は衛星打ち上げやミサイル発射を繰り返す可能性がある。このような分断に終止符を打ち、北朝鮮を国際社会の中に引き入れるための対話の努力が求められる。
 ウクライナとの戦闘でロシアが国際社会で微妙な立場に置かれている中で中国の役割は大きな意味を持つはずだ。その意味で今月に入り、1年ぶりに開かれた米中首脳会談、日中首脳会談で北朝鮮に関する明確なメッセージがなかったのは残念である。北朝鮮に関する突っ込んだ協議が必要であった。
 米軍基地に加え自衛隊の増強が急速に進み、有事を前提とした軍事演習が実施される中で県民はアジア・太平洋地域の緊張緩和と安定を待ち望んでいる。きょう那覇市で開かれる「11・23 県民平和大集会」でも平和を求める県民のメッセージが発せられるであろう。北朝鮮問題の平和的な解決は県民の願いでもある