<社説>重要湿地に与那国新港 自然と軍備計画共存せず


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<社説>重要湿地に与那国新港 自然と軍備計画共存せず
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 琉球列島最大規模の湿地帯の与那国島・樽舞(たるまい)湿原で、自衛隊などが使うため政府が検討する「特定重要拠点」の新たな港湾建設が計画されている。樽舞湿原は環境省が保全上、配慮が必要とする「生物多様性の観点から重要度の高い湿地500」の一つだ。

 10月には国指定天然記念物のアカヒゲが確認されるなど、樽舞湿原やその周辺には貴重な鳥類が数多く生息する。住民や研究者からは、港ができれば自然破壊につながり、生物多様性が損なわれるとの懸念の声が上がっている。
 新港湾は自衛隊などが平時に訓練・演習などに活用するだけでなく、有事には制海権を確保するため管理下に置かれることが想定される。軍事利用が前提だ。島の軍事化は有事に人々の命を危険にさらす。豊かな自然とも共存しない。軍事利用前提の新港湾計画は見直すべきだ。
 与那国町が政府に提出した比川港湾の計画は樽舞湿原一帯をしゅんせつするもので、全長約1・2キロ、幅約300メートルに及ぶ。専門家によると、湿原の底の溝には地上から見えない川が流れ、生物多様性にとって重要な湿地となっており、水系を壊したら「壊滅的な打撃になる」という。鳥類研究者は国の天然記念物のヒシクイやマガンなど貴重な鳥類を多く確認している。
 町教育委員会は「調査して将来的に保存しなければならない町の貴重な財産」との認識だ。生物について徹底した調査を早期に実施すべきだ。
 一方で町は有事の住民避難の観点から、新たな港湾整備を与那国空港の滑走路延伸と併せて求めている。政府も民間インフラの整備は国民保護にも役立つと強調する。
 甚だ疑問である。自衛隊の使用が想定される港湾や空港は軍事目標とみなされる恐れがあり、避難のための利用には危険が伴うからだ。
 堀井巌外務副大臣は国会で国際法の一般的な解釈として「軍事作戦に利用された民間施設は法的に軍事目標とみなされるという解釈でいいか」と問われ「基本的にその通り」と答えた。民間施設でも普段から軍事利用されれば危険極まりない場所になるのだ。
 自衛隊の行動と国民保護措置を兼ねるのは、ジュネーブ諸条約で定める「軍民分離の原則」とも矛盾する。戦時中であっても民間人が巻き込まれないよう、戦闘員と民間人、軍事目標と民間施設を徹底的に区別しなければならない。
 この点について政府も与那国町も正面から説明していない。インフラ整備は国民保護に資すると言いながら、実質は米軍も含めた日米の軍事利用拡大だ。さらに、貴重な自然を損ねる可能性がある。現行の祖納港は北風の影響で船舶の運航に課題があるが、自然環境に留意し、民間専用の港湾として整備すべきだ。
 沖縄戦を経験し、今も基地負担の大きい沖縄だ。軍事利用前提の民間インフラ整備をこのまま進めてはならない。