<社説>陸自性暴力有罪判決 組織そのものが裁かれた


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<社説>陸自性暴力有罪判決 組織そのものが裁かれた
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 裁かれたのは被告の元自衛官だけではない。性暴力をはじめ、さまざまなハラスメントの発生を許してしまった防衛省・自衛隊の組織そのものが裁かれたのである。

 元自衛官の五ノ井里奈さんに対する陸上自衛隊内の強制わいせつ事件で、福島地裁は被告の元自衛官3人全員に有罪判決を言い渡した。被告は無罪を主張したが、判決は被告の供述は「不自然不合理で信用できない」と退け、3人の行為を「卑劣で悪質だ」と厳しく断罪した。
 判決はまだ確定していないが、3人の被告は五ノ井さんを傷つけ、人生に大きな影響を与えたことに向き合い、深く反省してほしい。同時に防衛省・自衛隊は組織体質を抜本的に改める必要がある。
 この事件によって浮き彫りとなったのは、ハラスメントに対する危機感が希薄な組織体質であった。それも五ノ井さんが実名を公表し、加害者や自衛隊の責任を訴えたことで防衛省はようやくハラスメント問題への対応に動きだしたのだ。
 中傷にさらされながら自衛隊内の性暴力を訴えた五ノ井さんの決断と行動を重く受け止めなければならない。
 五ノ井さんの訴えを受け、防衛省は全自衛隊員を対象としたハラスメントに関する特別防衛監察を実施し、今年8月に結果を公表している。
 それによるとパワハラやセクハラなど1325件の申し出があり、うち6割以上に当たる850件が、内部の相談員や窓口を活用しなかったと回答した。不利益を受けるとの懸念や相談できる環境にないというのが大きな理由だ。
 組織内に相談員や窓口などを設けてもハラスメント抑止策としては機能しなかったというのが実態であろう。
 相談員などに被害を訴えた人への聞き取りに対し「事を大きくすると職場にいられなくなるぞと言われた」「隊長と班長に傷が付くとして取り下げを促された」などの声が寄せられたという。これではハラスメント被害者の救済と再発防止ではなく、被害隠蔽(いんぺい)による組織防衛を優先したと見られても仕方がない。
 防衛省が設置したハラスメント防止対策有識者会議は、自衛隊におけるハラスメント事案について「個人的関係において生じる個別の事案とみなされ、組織風土・組織特性にかかって発生する問題との認識に基づいた対処がされてこなかった」と指摘した。
 さらに「防衛省・自衛隊として、ハラスメントを許容しない組織風土の醸成がいまだ途上にあり、その努力もまた不十分」と厳しく評価している。防衛省・自衛隊は有識者会議の提言を真摯(しんし)に受け止めてほしい。
 判決後の会見で五ノ井さんは「日本社会にハラスメントは犯罪だと知らせることができて良かった」と語っている。この言葉とともに五ノ井さんの行動が真に生かされる社会を築かなければならない。