<社説>国立大学法人法改正 「学問の府」侵しかねない


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<社説>国立大学法人法改正 「学問の府」侵しかねない
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 13日に閉幕した臨時国会で、国立大学法人法の改正案が与党などの賛成多数で可決成立した。大規模な大学に予算などの決定権を持つ合議体「運営方針会議」の設置を義務付けている。

 法案に対しては大学関係者から強い懸念や反対の声が上がっていた。廃案を求める岸田文雄首相宛てのオンライン署名は4万筆を超えた。「学問の自由」や「大学の自治」を侵害する恐れがあるというのが主な理由である。大学への不当な政治介入を許しては「学問の府」を守ることはできない。大学そのものの姿を変える恐れがあるのだ。
 今回の法改正で強く批判されているのが「運営方針会議」の性格である。設置の対象は東京大、京都大、東北大、大阪大、東海国立大学機構(岐阜大と名古屋大を運営)の五つである。
 運営方針会議は、これまで学長や大学の役員会が担っていた予算や経営計画の決定権を持つ。学長と3人以上の委員で構成される。委員は文部科学相が承認し、学長が任命する。
 この委員承認に文科相が関与することが問題視されている。仮に文科相の意に沿うような人物しか承認しないということになれば政治介入を招きかねないとして不安が広がっているのである。国立大学協会は運営方針会議を設置する大学の自主性・自立性を尊重するよう求めている。
 大学の競争力向上に外部専門家の知識を取り入れるというのが、運営方針会議設置における文科省の狙いである。それに対し、大学の自主性や研究の多様性が損なわれるという強い懸念が残る。外部専門家の知識を取り入れるため、新たな合議体の設置を義務付ける必要があるのか、疑問が拭えない。
 盛山正仁文科相は11月の国会で、改正案に反対する野党に対し「恣意(しい)的な運用をするつもりはない。大学の自治が脅かされるという恐れはない」と答弁している。
 しかし、この答弁を素直に受け入れるわけにはいかない。2020年に首相官邸が日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した問題がある。これこそ学問の自由に対する不当な政治介入であった。当時の菅義偉首相は6人の任命拒否理由について明確な説明を避けてきた。
 運営方針会議の委員承認でも同じようなことが起きかねない。京都大学職員組合は東京大、岐阜大、名古屋大、大阪大の各組合と共同で発表した声明で、日本学術会議の任命拒否問題を引き合いに「文科相が運営方針会議を通じて大学を支配する仕組みだ」と廃案を求めていた。
 政府、文科省はこれらの懸念や疑問に向き合い、丁寧に説明すべきであった。それを怠ったために不信感が広がったのだ。今後説明を尽くし、それでも十分な理解が得られなければ、運営方針会議の設置は見送るべきだ。