<社説>100カ所超土地規制へ 法の廃止を強く求める


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<社説>100カ所超土地規制へ 法の廃止を強く求める
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 土地利用規制法の対象区域として、新たに沖縄本島の米軍・自衛隊施設などを含む100カ所以上を指定する政府の方針が判明した。安全保障上重要とされる「重要施設」や国境離島周辺の土地取引を規制するものだ。

 調査範囲は、「重要施設」などの周辺1キロ圏内で、不動産登記簿、住民票や土地・建物の所有者名、国籍にも及ぶ。土地の売買などについて日常的に国家権力の監視の目にさらされる。安全保障を理由に、国民の暮らしへの影響は度外視される形だ。
 米軍や自衛隊の基地が多く存在する沖縄の住民への影響は非常に大きい。地域住民の権利を脅かし、重大な人権侵害を招く恐れのある土地利用規制法は即刻、廃止すべきだ。
 制度を所管する内閣府は今月中にも新たな対象区域を審議する「土地等利用状況審議会」を開催し、新たな指定区域案を示す。嘉手納基地(嘉手納町など)やキャンプ・ハンセン(金武町など)、普天間飛行場(宜野湾市)などの米軍基地、航空自衛隊那覇基地や陸上自衛隊那覇駐屯地(ともに那覇市)が、周辺1キロで「注視区域」「特別注視区域」の対象となり、「機能阻害行為」があれば勧告や罰則を伴う命令の対象となる。
 土地利用規制法は国会審議時から「国民監視につながる」と懸念されてきた。「注視区域」に指定されると、政府が土地の利用状況を調べるほか、「特別注視区域」では、200平方メートル以上の土地売買は届け出が必要となる。
 弁護士からは、調査対象者に土地利用者だけでなく「関係者」も含まれるなど「どのようにも解釈できる」との指摘がある。また、対象となる区域を広げることで、住民を萎縮させ、基地反対運動などの表現の自由を阻害する恐れもある。社会経済活動への支障も指摘されている。
 基地周辺の土地を外国資本に買い占められる懸念が法整備の発端だ。だが内容は周辺住民を監視下に置くもので、国民の権利を阻害する懸念は拭えない。国が軍事目的で国民の土地を収用できた戦前の土地収用法を想起させる。
 関係自治体からは、地元住民に向けたパブリック・コメントや説明会を求める意見も上がっているが、内閣府はいずれも実施しない方針。一方で区域指定は加速しており、進め方も、乱暴と言わざるをえない。内閣府は今後、全国約600カ所に指定区域を拡大するとし、2024年度中としていた区域指定の完了時期を23年度中に前倒しする考えも示している。
 県内では米軍専用施設と自衛隊施設を合計した総面積が19年以降3年連続で増加している。これに伴い、土地規制の対象区域も増大することになる。基地負担の軽減どころか、大幅な負担増であり、非常に深刻な事態だ。
 県や市町村の行政だけでなく、地域住民も法の問題点を認識する必要がある。