高校時代は野球部に在籍していた。チームの柱、4番バッター。しかし練習は好きじゃなかった。手を抜くことばっかり考えていた。最後の公式戦も肝心な時に打てずに負けた。試合が終わった時、チームのみんなは泣いていた。すごく後悔した。3年間もっと真剣に打ち込めば良かったなと…。
3カ月後、人生を大きく変える出来事があった。地元、久米島で年に1回の町民運動会が開かれ、私の地区から陸上部の後輩が出場することになっていた。その後輩は沖縄県の高校新人大会で400メートル3位の選手。しかしその彼は陸上の試合があるため欠場することになり、代役で私が出場することになった。そして運動会当日、人生初の100メートルのレースに出場。なんと11秒4という大会新記録で優勝。そこで気づいた。「俺、足速いんだな」
高校時代にスポットライトを浴びたのはこの日のみ。翌日からは相変わらずパッとしない日々を悶々(もんもん)と過ごしていた。ところが進路を決める頃、副担任の女性の先生が、専門学校に進学を決めていた私に、「大学で陸上競技をやってみては」と勧めてくれた。その高江洲ヤス先生は、町民運動会に出場する予定だった後輩のお母さん。なんというご縁。この親子がいなければ今の私はまた違った道を歩んでいただろう。
人生は人、経験、そしてその思考で形成されていくと思う。人との出会い、野球部時代の経験のおかげで今、陸上競技を続けさせてもらっている。運動会の代役から始まった陸上競技。昨年、世界マスターズ陸上のリレーで世界一になり、先生に金メダルをかけることができた。先生は泣いて喜んでくれた。私の人生を大きく変えてくださったその女神のためにも、今年も世界に挑戦して、新しいメダルをかけさせていただきたいと思う。
(譜久里武、アスリート工房代表)