<南風>「琉球人」を出発点に


社会
<南風>「琉球人」を出発点に
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 1855年に締結された「琉仏修好条約」の草案とナポレオン三世に宛てた国書がオークションに出品され、東京古書会館で一般公開されると知り、11月18日に見に行った。ショーケースに陳列された文書は美しい楷書体の漢文で記され、私でもほぼ完全に理解することができた。紙が重なって隠れている部分があったので係員に「隠れている部分も読んでみたい」と頼むと、なんとショーケースを開けてくれ、直接手に取って読むことができた。

 大国のプレッシャーの中で国の存続のために奔走した先人の苦労が直接伝わり、思わず涙があふれた。沖縄の宝として故郷に戻って来てほしいと心から願う。

 数日後、復旦大学日本研究センターの招きを受け、国際シンポジウムに参加するために上海を訪問した。シンポでは漢字文化圏を研究している研究者から、明代に中国で活躍したイタリア人宣教師マテオ・リッチが「中国札記」の中で「中国人、日本人、朝鮮人、ベトナム人、琉球人はお互いに会話が通じないが、書面にすれば皆、分かる」と記しているとの紹介があった。琉球人は日本人ではないと当時から認識されていたことがよく分かった。

 私の発表では、まず「琉球処分は1879年。1979年生まれなので、私は琉球国が滅亡して100年後に生まれた沖縄人です」と自己紹介した。これまでの沖縄と中国とのつながりに触れ、現状を踏まえた上で今後の協力の在り方についていくつか提言した。

 「日本国籍を持つ琉球人」が私のアイデンティティーだ。国が滅ぼされ、国籍と民族が一致しなくなっても、それがすぐさま民族の滅亡を意味するわけではない。これからも民族の存在すらも否定する動きには徹底的にあらがいつつ、琉球人であることを出発点として故郷やアジア、世界のことを考えていきたい。

(泉川友樹、日本国際貿易促進協会業務部長)