宇宙につながる廃材アートの世界 久夫美術館


宇宙につながる廃材アートの世界 久夫美術館 今年開館1周年を迎えた久夫美術館。民家の廃材や海洋漂流物を使用し、ほぼ一人で完成したという同館には「宇宙と生命の不思議な世界」をテーマに500点あまりのアート作品が展示されている(左上から時計回りに)長男の知名友木(ともき)さん、長女の仲宗根友子(ともこ)さん、館長の知名久夫(ひさお)さん、妻の房江(ふさえ)さん=八重瀬町の久夫美術館 写真・村山望
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廃材をアートに。新たな命吹き込む

八重瀬町具志頭、海の見える高台に位置する「久夫美術館」は、画家の知名久夫さん(72)が11年をかけて完成させた私設美術館だ。民家の廃材や流木などを再利用して建築されたという同館は、久夫さんいわく「美術館という作品」。今年の1月に開業1周年を迎えた久夫美術館で、館長の久夫さんと共同経営者である長女の仲宗根友子さんに話を聞いた。

物心ついたときから絵を描いていたという久夫さんは1952年、宜野座村の出身。16歳のときに独学で油絵を始め、以降、半世紀以上にわたり多くの作品を描き続けている。その一方で、趣味である廃材収集で得たスクラップや流木を使った彫刻や家具製作も取り組む。およそ11年かけて建設した久夫美術館の至る所にも廃材が使用されているという。

「波に削られたり、風化、変色したものには特有のわびさびがある」と久夫さんが言うように、館内は味わい深い木の温かみがある。

「廃材の再利用はエコというだけでなく、こういう立派なものにも生まれ変われるんです。そういうところにも注目していただきたい」と久夫さんは語る。

家族一丸となって経営

久夫美術館オープンの裏には、友子さんをはじめとする家族の応援があった。

外観。壁面の立体模様は浮き球や食品トレーなどの海洋漂着物を取り付けている
外観。壁面の立体模様は浮き球や食品トレーなどの海洋漂着物を取り付けている

「父はこだわりが強いので、美術館も造っては直しての繰り返しでなかなかオープンに至らなくて…私が無理やりオープンさせたんですよ。生きてるうちに、って!」と快活に話すのは長女の友子さん。マネジメントの視点から、芸術家である父・久夫さんをサポートしている。

館内に併設しているカフェスペースや舞台の設置も友子さんの発案だ。来てくれた人にゆったりとした時間を過ごしてほしい、という思いが込められている。

「一番は母の支えがあってです。母が介護の仕事をしながら大黒柱となって支えていましたから」と友子さんは言う。建築面など、力が必要な場面は長男の友木さんがサポート。SNSを活用した宣伝や運営の面は友子さんが担当し、家族一丸となって経営している。

360度に広がるアート

「宇宙と生命の不思議な世界」をテーマに、館内には久夫さんが50年以上描きためたという絵画のほか、廃材を使った金属彫刻などが360度、所狭しと展示されている。

金属彫刻「吠える恐竜」
金属彫刻「吠える恐竜」
金属彫刻「かまえる鳥人」

その中から何点か紹介しよう。大きいもので1メートルほどある金属彫刻は、鉄くずやガスボンベ、不発弾の破片を切断・溶接し、虫や鳥などをモチーフに空想上の生き物を形作っている。あえてさびさせることで、化石や古代の遺物のような印象を受ける。

現在制作中の絵画「パラレルシリーズ」では、明治~大正時代の沖縄の風景の中を、人間と不思議な生命体とが混在しているのが面白い。

パラレルシリーズから「パラレルニライカナイ」
パラレルシリーズから「パラレルニライカナイ」

最後に、今後の目標について聞いてみた。

「八重瀬町といえばここ!という新しい観光地にしていきたいですね。県内の方はもちろん、県外や海外の方など多くの人に父の絵を見てもらいたい。ここに来たことをきっかけに沖縄のアート界が盛り上がればいいと理想的です」(友子さん)

「飾っていない作品がまだたくさんあるものだから、展示スペースをもっと広げたい」(久夫さん)

まだ「未完成」だという久夫美術館。興味のある方はぜひ、その迫力を間近で堪能してほしい。

(元澤一樹)

久夫美術館

八重瀬町具志頭1038-1
営業時間=10:00~17:00
定休日=月曜、火曜
入館料=500円(高校生以下無料)
TEL 098-914-0688

(2024年2月1日付 週刊レキオ掲載)