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唯一無二の世界観 「次は一般の大会で優勝したい」パラリンアート世界大会で与那覇さん凖グランプリ 沖縄県勢初の上位


唯一無二の世界観 「次は一般の大会で優勝したい」パラリンアート世界大会で与那覇さん凖グランプリ 沖縄県勢初の上位 与那覇俊さん
この記事を書いた人 Avatar photo 当銘 千絵

 障がい者アートのワールドカップといわれる「パラリンアート世界大会2023」(障がい者自立推進機構主催)で、豊見城市の与那覇俊さん(45)の作品「無題」が準グランプリに選ばれた。同大会で県勢の上位入賞は初めて。与那覇さんは、障がいのない人との壁を感じ、悩んだ時期もあったと振り返り「本来は芸術に障がいの有無は関係ない。次は一般の大会で優勝したい」と述べた。

 障がいのある人々からアート作品を募集する同大会には今回、世界23の国と地域から488点の応募があった。

 約50本のフェルトペンを自在に扱う与那覇さんが今大会選んだテーマは「宇宙旅行」。縦109センチ、横79センチのキャンバスに、自身が宇宙旅行をしたり地球へ帰還したりする様子を描写した。審査員からは「作者の強烈なビジョンが投影された絵画。自らの頭の中にある言葉や思考を画面に落とし込むことにより、独自の方法で世界のあらゆる事象を記録することを試みている」と評価された。

病との闘い

 高校までサッカー少年だった与那覇さんは、茨城県の大学に進学した。在学中に民族音楽のフォルクローレと出合い、大学を1年休学してボリビアへ渡るなど「一度ハマったらとことんやる」性格の持ち主だ。

 だが、帰国後にある出来事がきっかけで、精神疾患となった。しばらくは学校にも行けず、家族の献身的な支えで2003年に卒業した。ただ、沖縄へ戻ってからも入退院を繰り返す日々が続いた。

 絵を描くきっかけは13年、通っていた那覇市地域生活支援センター「なんくる」で見たキワエビトさんの作品に衝撃を受けたからだ。軽い気持ちで始めたが、同年開催された「こころの芸術・文化フェスティバル」絵画の部で最優秀賞に選ばれた。同じ頃、自分に合った薬にも巡り合い、本格的に創作活動に取り組んだ。

 これまでに2千点以上の作品を生み出し、18年と22年には「岡本太郎現代芸術賞」で入選し、「沖展」でも入賞するなど多数を受賞した。23年には東京都の調布市文化会館のエレベーターホールをキャンバスとしたウォールアート(壁の芸術)を手がけるなど、活躍の場を広げている。

唯一無二の世界観

 与那覇さんの作風はとりのこ用紙に、色とりどりのペンで細かいモチーフや文字をびっしり書き込むスタイル。作品を全体的に捉えるとポップな印象だが、近くで目を凝らすと、与那覇さんが考えていることや現実社会で起こっている世相を反映した表現など無数の情報を詰め込み、バラエティーに富む。

パラリンアート世界大会で準グランプリに選ばれた与那覇俊さんの作品「無題」(提供)
パラリンアート世界大会で準グランプリに選ばれた与那覇俊さんの作品「無題」(提供)

 母親からはメッセージ性が強くて怖いから作品を近くで見られない、と言われることもある。与那覇さんは「自分としては作品の前で足を止めて、隅々まで全部見てもらいたい」と強調する。

 また、与那覇さんは、日本が障がいの有無で芸術活動の場を区別しているとし、制限があると受け止め、欧米諸国よりも活躍の場は開かれていないと感じている。芸術活動を通じて障がいのある人の社会参加と、障がいへの理解が深まことを願っている。

 「僕は穴から落ちた所からスタートしたが、絵を描くことで長い足を手に入れ、どこへでも行けるようになった。今は長い手もあるから、障がい者の仲間たちと手をつないで一緒に絵を描き、誰もが生きやすい社会を作っていきたい」

 自身にできることを模索し続けると前を向いた。

 (当銘千絵)