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連載を終えて 沖縄が第二の故郷に 河瀬直美エッセー<とうとがなし>(24)


連載を終えて 沖縄が第二の故郷に 河瀬直美エッセー<とうとがなし>(24)
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 沖縄を第二の故郷のように感じることが増えた。特にこの「とうとがなし」を連載させてもらって3カ月が過ぎた去年の7月半ばあたりから、様々(さまざま)な広がりを実感している。沖縄に来れば必ず訪れていた首里にある「富久屋」さんは、先日「琉球新報の連載いつも読んでるよ」とオーナーのオッコさんが声を掛けてくださり、食後の甘いものをサービスで出してくださった。中味汁もいなむどぅちもとても美味(おい)しい。

 一昨年の9月、坂東玉三郎さんのお舞台が「なはーと」であるというので来島していたが、あいにくの台風で中止になった時、富久屋さんが開いていたので食事をしていた。すると、おそらく地元の20代前半くらいの女性が、私のルーツ奄美大島で撮影した「2つ目の窓」の大ファンだと泣きながら声を掛けてくれたことがある。風の強い静かな店内で彼女と向き合った時間はとても深く私の記憶に残っている。

 その後、いつも気になっていた浦添市美術館に足を伸ばした。台風で休館になっているかと思いきや、開店休業状態の贅沢(ぜいたく)な貸し切りでゆっくりと展覧会場に佇(たたず)んでいたら「素敵(すてき)なお召し物ですね。カカンみたいなスカート」と声を掛けてくださった学芸員の金城聡子さん。去年の秋に那覇で開催した紅型工房ひがしやさんとのコラボ企画のPOP―UPで、ハイアットリージェンシー那覇沖縄でトークイベントをした際にもお越しいただいた。

 トークイベントの案内役をしてくれた琉球舞踊家・髙井賢太郎君の紹介で、先日の来島では角萬漆器さんの新しくなった首里の店舗で六代目の奥様のゆかりさんとお近づきになれた。奈良の材で琉球漆とコラボをする計画を着々と進めている。

 国立劇場おきなわの20周年の千秋楽を飾った琉球版ロミオとジュリエット「薬師堂」。3月になるとワクワクするという女性たちの華やかな歌や舞の幕開けから繰り広げられる歌劇を初めて鑑賞した。中でも玉城匠さんと平敷屋門勇也さんのコンビが絶妙の間合いで笑いを誘う場面では、会場から拍手が起こり観客の皆さんが大笑いしていて、とても幸せな気持ちになった。

 国の文化財指定を受ける組踊の上演は補助金を活用して単独で開催されることも多い。かたや上演の機会が少ないこの沖縄芝居こそ、お客様に開かれたとても素晴らしい芸能だと改めて認識した。ふたつを一緒に上演する今回の挑戦が若き芸術監督金城真次さんの采配で行われているとすれば、とても素晴らしい千秋楽の番組だと惚(ほ)れ惚(ぼ)れした。かつてうちなーに広く浸透していた沖縄芝居の人気を復活させるだけでなく、これを機に県外や海外にも普及させる、とても素晴らしい可能性を秘めていることを実感して幕は閉じた。

筆者が沖縄で出会った人々

 「琉球ホテル&リゾート 名城ビーチ」にまつわる沖縄から世界へ拓(ひら)いてゆく取り組み、ギャラリーはらいそ識名園の本物を取り扱う心根。宮古島の御嶽と森万里子さんのアトリエ、ナガオカケンメイさんが惹(ひ)かれる沖縄とやんばるアートフェスティバル、クバ作家の小川京子さん、伊是名・伊平屋の歴史と文化、喜如嘉の七滝、竹富島の子守唄。座間味島の平和へ向かう道行きと移住者たちが考えるこれからの島のありよう。

 さて、このように、まだまだここで取り上げたい人や場所や物事が沢山(たくさん)ある。先日も座間味島にて河瀨が総監督を務めるオリンピックの公式映画を上映いただく機会を得て島に高速船で向かった。そこで「いつも琉球新報を読んでいます。これからも楽しみにしていますね」と声を掛けていただいた女性がいて、嬉(うれ)しいなと思うと同時に、「とうとがなし」の連載終了のお知らせをお伝えしなければいけない切なさに、今私は苛(さいな)まれている。

 また、いつかどこかで連載を復活する日が来ることを願いつつ、これにて筆をおきたいと思う。いつも、締め切りギリギリまで推敲(すいこう)する河瀨にお付き合いくださったスタッフの皆様ありがとうございました。お陰様で皆さんに深く共鳴していただく24編ものエッセイ集となりました。読者の皆様、これからもどこかでお目にかかる時には気軽に声を掛けてくださいませ。新聞は一方向のメディアではないということを再発見できた1年間、とても幸せでした。誠ににふぇで~びたん。ありがっさまりょ~た。

 とうとがなし(尊尊我無)。

 (映画作家)