沖縄戦の作品を多数執筆してきた漫画家の比嘉慂さんによる初の写真集「風土の家 那覇の街角」が、ボーダーインクから出版された。写し出されているのはどれも、1960~80年代に建てられたとみられる味わい深き家々。なぜ今カメラを手に取り、那覇の街を練り歩いたのか―。比嘉さんに作品に込める思いを聞いた。
(聞き手・当銘千絵)
―写真集は長年、構想していたものの結晶なのか。
「最初は全く想定していなかった。健康のためにと数年前から散歩を始めたが、やってみると楽しくて。昭和歌謡を口ずさみながらぼんやり歩いていると、家々の方から『私はここよ』『僕はこっちだ』と手招きするように誘ってくる。そしたらカメラを構えずにはいられなくなった」
「初めは近所の散歩コースがメーンだったが、いろんな景色が見たくなり、徐々に他の地域にも足を延ばすようになった。首里、真和志、小禄。初めて歩く道や細い路地を巡りながら、住んでいる人の営みや、家々が見てきた歴史なんかを想像したりして。どんな家にも歴史や思い出があると思うと愛しくなり、今この瞬間を記録に残したいと思うようになった」
―作品づくりを通して見えてきたことは。
「創作活動の根底に、ウチナーンチュの自分だからこそできる表現というものを大事にしてきた。これまで沖縄戦を題材にした漫画を描いてきたのも、その思いがあるからだ。写真集が1冊にまとまり振り返ってみると、私自身、沖縄を確かめたいという思いが強かったように思う」
「政治的に翻弄され、長年、不条理を強いられている沖縄で生きるということ。根底には何があるのか、問い続ける人生だった。人生も晩年に入り、最近はより頻繁に考える。年月を重ねた家のかもし出す風情は、まっとうに暮らしたいと願う人々の誠実なぬくもりが感じられ、この不条理な沖縄にあっても芯はぶれない。まさに風土の心を、私は家々に見いだしていたことに気づかされた」
―表紙にはモノクロの絵が施されている。
「幼少期の記憶をたぐり寄せ、私の見た懐かしい那覇の原風景を描いた。かわらぶき屋根の家、道で遊ぶ子どもたち。いびつな形の塀には、戦争の爪痕が残っている。写真集は一つの記録であり、私の記憶でもある。自分たちが生きている沖縄の今が、この一冊に写し出されている現実だということを噛みしめたい」
「誰の家なのか、どこの街角なのか分からないように撮影したのも、あえてのこと。ページをめくりながら、なんとなく懐かしく、胸に熱いものがこみ上げてくる人が一人でもいるならば感無量だ」
ひが・すすむ 1953年那覇市生まれ。漫画家。『カジムヌガタイ』で2003年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞。11年に『砂の剣』と『マブイ』を仏語訳した『SOLDATS DE SABLE(砂の兵士)』が、23年に英語版『OKINAWA』がそれぞれ出版された。