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<書評>『「御願じょうず」なひとが知っていること』 暮らしにつながるもの


<書評>『「御願じょうず」なひとが知っていること』 暮らしにつながるもの 『「御願じょうず」なひとが知っていること』稲福政斉著 ボーダーインク・2200円
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 私は子供の頃、祖父と母と与那国島で暮らしており、終業式の日に通信簿をもらうと見せる順番があった。祖父、母、そして仏壇のご先祖さまたちだった。私はそれなりに欲のある子供で、線香をお供えしながら「頑張ったから良いことがありますように!」と、ご先祖さまに話しかけながら手を合わせていた。

 幼い頃から死者や神様の存在を身近に感じていたのは、島の生き字引のような祖父のおかげだ。何事にも旧暦や六曜を重んじ、供物や言葉や祭事について教えてくれた。

 そんな祖父のような存在がいる家は、御願(うがん)に親しみがあり、令和となった現在も生活の一部となっていることだろう。

 しかし、生活様式や社会が変わり、考え方も世代間では異なる今、御願の行事は簡易化され、意味も分からず形だけが残り、そして忘れ去られていることも少なくない。忙しいから、めんどくさいから、と言ってしまえば、それまでかもしれないが、御願は私たちの暮らしにつながるものだということを忘れないでほしい。

 また、県外へ出たとき「あなたの故郷はどんな所?」と聞かれた際、あなたはどれだけ自分の故郷のことを相手に伝えられるだろうか。自分よりも下の世代に、行事や御願の意味をどれだけ教えられるだろうか。

 きっと、私が生まれた26年前と今を比べても、沖縄の風習や行事は変容しているだろう。ウチナーグチを話す世代がついにいなくなったその時、それはさらに加速するのだろう。

 本書は、沖縄の行事やしきたり、常識やマナーについて、今と昔、沖縄と県外を比較しながら、御願上手になる術を教えてくれる。そして、私が本書で1番驚いたのは、2033年に旧暦が破綻するということ。今は天保暦を基にしているが、従来の方法では旧暦を作れなくなるという。そうなると、旧暦をさほど意識していない県外でも影響が出てくるため、新たな旧暦作りの方法が生み出されるのではないかという。変わらずにいるためには変わることも時に必要なのだと感じた。

 (俳優、監督・東盛あいか)


 いなふく・まさなり 那覇市出身。県文化財保護審議会専門委員、沖縄国際大学・沖縄大学非常勤講師。主な著書は「沖縄しきたり歳時記」「ヒヌカン・仏壇・お墓と年中行事―すぐに使える手順と知識」など。