「すがい半分 もーい半分」に、むるもーい
琉球舞踊公演蓬莱は、阿嘉修さん(玉城流翠扇会師範)が日本舞踊の素踊りに挑戦してみたいと始まった。琉球舞踊が完成する半分は、扮装にあると言われるなか、素踊りは半分に当たる衣装・化粧がない。「それゆえ、技・心が試される修練の場」と、嘉数道彦さん(宮城流能里乃会師範)、佐辺良和さん(世舞流二代目家元)らと舞台に臨む。その舞台裏には、2017年の初演から制作を担い続けた前西原祥子さん(シアター・クリエイト代表)の存在があった。
「阿嘉さんは振り付けの天才」と評する前西原さん。同世代の2人は20年ほど前、阿嘉さんの地元コザで関わった伝統芸能事業をきっかけに意気投合。実演家と企画運営の付き合いが今に続いている。
今回、取材は蓬莱第8回公演直前のこと。7月7日に独演会を控えた中堅の大浜暢明さん(玉城流てだの会師範)も加わって、蓬莱のメンバーが整ういきさつを聞いた。
ノリが合うメンバー
蓬莱のメンバーは、流会派を超え年齢差を交えた男性舞踊家6人。今さらながら奇跡の顔ぶれである。
阿嘉さんは当初、県立芸術大学の後輩らに企画を持ち掛けたが、「素踊りというとみんな尻込みして、乗ってこなかった」と振り返る。阿嘉さんはいったん公演を諦めた。
3年後、再度の誘いに乗ってくれたのは気の合う舞踊家たち。気品ある古典女踊や組踊の女方で熱烈な女性ファンを持つ佐辺さん、当時国立劇場おきなわ芸術監督だった嘉数さんである。
「年かさはそろった。後輩もいた方がいい」と、居酒屋で人選に及んだ3人。阿嘉さんの目に光る存在に映った沖縄国際大学出身の大浜さんが呼ばれ、さらに組踊研修を修了した玉城匠さん(宮城流豊舞会教師)、当時22歳の芸大生だった上原崇弘さん(玉城流喜納の会教師)に声を掛けて蓬莱の陣容が整った。
最年長と最年少の年齢差は21歳。上原さんは上背178センチ、阿嘉さんは「年齢に偏らず、体型も大中小そろったチームになった」と笑う。初演の素踊りの衣装を仕立てに、上原さんの体格に反物が足りず、小サイズの阿嘉さんから”上納“して間に合わせた。
古典舞踊を踊る機会
「呼び出されて居酒屋に行ったら、そうそうたる先輩方、後輩の2人もマルチフルで頭が上がらない」。県立芸大出身ではない大浜さんは、その豪華なメンバーに入っていいのかなと思ったそう。
「あの3人から声を掛けられてうれしいよね」と、前西原さん。蓬莱がなければ、大浜さんら”弟チーム“に出会うこともなかった。振り付けの才と若手の成長を促す阿嘉さんの手腕。前西原さんが長年の阿嘉ファンであるゆえんだ。
「蓬莱は素踊りに挑戦したい、普段踊る機会のない古典や雑踊りなどの舞踊を踊りたいというシンプルな動機が原動力。地謡も乗ってくれている」と、阿嘉さん。メンバーは踊りたい古典舞踊をくじ引きで決めた年もある。素踊りの稽古は”先輩チーム“がわちゃくい(いたずら)したり互いに楽しんでいる様子。
「6人それぞれ技量がすごい。材料がいいのでどう調理(振り付け)しても最高の料理ができる」と阿嘉さん。観客は修練を重ね、磨き上げたメンバーの踊りを”みぐゎっちー(観るごちそう)“として堪能できる。次回の蓬莱公演は来春に予定されている。
(伊芸久子)
琉球舞踊 玉城流てだの会 大浜暢明の会
7月7日(日)開演14時(開場13時30分)国立劇場おきなわ小劇場
プログラム 素踊り「天川」「柳」「初ムーチー」など
自由席3500円(当日4000円)
問い合わせ TEL 090-3074-8295(シアター・クリエイト)
公演チケットは完売しました。
(2024年5月23日付 週刊レキオ掲載)