歌三線で華やかに伝統つむぐ 琉球古典音楽演奏家 親川遥さん


歌三線で華やかに伝統つむぐ 琉球古典音楽演奏家 親川遥さん 県立芸術大学を卒業後、琉球古典音楽演奏家として、また琉球古典音楽野村流保存会師範として活躍中の親川遥さん。今年4月にはアルバム『綾もどろ~月の若清ら~』を発表し、5月に国立劇場おきなわ小劇場で開催した「第一回独演会」が成功を収めるなど注目を集めている。アルバムのこと、現在の思いなどを聞いた=那覇市・琉球新報社 写真・村山望
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琉球王国の音楽を「月」で表現

琉球王国時代から継承され400年以上の歴史を誇る「琉球古典音楽」を学び、三線の伴奏に乗せ琉歌をうたう親川遥さん。高くて伸びのあるその美しい歌声は、一度聞くと忘れられないほど印象的だ。アルバム収録曲や公演開催日など「月」にこだわる親川さんに込めた思いや演奏家の道へと歩んだ背景を教えてもらった。

今帰仁村出身の親川遥さんは、ラジオから流れる琉球古典音楽や琉球民謡を子どものころから聞いていたという。

「ラジオが身近にあってよく聞いていました。農家の叔母の作業を手伝う時もずっとかけていましたし、ラジオから聞こえる音楽を聞くのが当たり前の毎日でした。そんな風に音楽が自然に耳に入ってくる沖縄の環境が、どんなに特別で素晴らしいのかは今になって気付いたことです」

プライベートではJ-POPやポップス、ジャンル問わずいろんな音楽を聴いているという親川さん。

「琉球古典音楽しか学んでいないからこそ、最近はどういう曲が主流なのか気になったりします。ラップ曲などは3分くらいの短いメロディーにたくさんの言葉を歌詞にして乗せていますが、私は真逆。三十音で作られた琉歌を10分くらいかけて歌うので、その対比を楽しむこともあります」とほほ笑む。

また、琉球民謡を参考にする場合もあるそうだ。

「民謡と古典はジャンルが違いますが、発声方法や情感を込める節回しなど、民謡歌手の方の歌声を聴かせていただいています。とても参考になりますし、民謡ならではの歌の情けがあると、師匠の新垣俊道に教わったこともありました」

「島唄」で新たな魅力を

最近の活動で思い出深いのは、宮沢和史さんとの共演・共作だと話す親川さん。宮沢さんの最新アルバム『~35~』の収録曲「島唄~琉奏~」に、歌三線で参加した。

アルバムへの参加やライブ共演など、交流のある宮沢和史さんと

「宮沢さんにとって、そして沖縄県民にとって大切な『島唄』という曲に関わらせていただくなんて、最初は想像できませんでした。もちろんうれしいですが、プレッシャーみたいなものを感じたんです。でも亀井美音(かめい・みおん)さんの編曲によって楽器の音が一つになり、琉球古典音楽を歌うような心持ちで臨めて衝撃的でした」

亀井さんはミュージシャン・日出克さんの娘で、親川さんにとって県芸大学の同期生。共に琉球古典音楽を学んだそうだ。宮沢さんは「本を読み聞かせるように歌うことができました。親川さんは琉球古典音楽界の重要人物。華のある彼女がいろんな場所で歌うことにより、興味を持つ人が増えていくと思います」と語ってくれた。

古典音楽と現代をつなぐ

発売中のアルバム『綾もどろ~月の若清ら~』は、親川さんの歌三線に箏・笛・胡弓の演奏を重ねて録音。「與儀前ん田節(ゆーじめんたぶし)」「しよどん節(しゅどぅんぶし)」「浜千鳥節(はまちどぅりぶし) 」ほか、月をテーマに選んだ名曲14曲が収録されている。

4月21日開催の「島ぜんぶでおーきな祭 第16回沖縄国際映画祭」Laugh&Peace LIVEに出演した(提供写真)

「月を見ながらいとしい人のことを考え、月明かりの下で遊び興じるなど、人々は古い時代から月に思いを込め共に生きてきました。現代でも共感できるはずですし、演奏家としての活動を始めたころ、毎月満月の夜に首里の寺院で演奏会を開催していました。なので、月を主題にした曲でアルバムを制作したんです」と親川さん。琉球古典音楽を継承していく決意と姿勢が、このアルバムから伝わる。

美しい月をたたえる本作を聞いて楽しむことを、琉球古典音楽に触れるきっかけにしたい。

(饒波貴子)

琉球古典音楽演奏家 親川遥・CDアルバム『綾もどろ~月の若清ら~』

月をテーマにした琉球古典音楽全14曲を収録した、CDアルバム(2500円/よしもとミュージックより発売中)

(2024年6月27日付 週刊レキオ掲載)