北谷町の児童生徒やプロの実演家が出演する創作組踊「対馬丸」(大城立裕原作、山城亜矢乃脚本・演出)が12日、ちゃたんニライセンターカナイホールで開かれた。同町自主文化事業実行委員会主催で昼夜2回公演。対馬丸に乗船することになり雪合戦や汽車などへのあこがれを八六調の唱えで無邪気に語り合う子どもたち。間もなく失われた小さい命、生き延びた末にも苦しんだ小さな命の舞台を、出演者らは一体となり作り上げた。
撃沈から生き残った玉城武志はかん口令の中でほろをかぶされて沖縄に戻り、亡くなった親友の家族から詰問され苦しむ。そんな中で島を10・10空襲が襲った。地謡の哀切のある歌と奏でが悲しみをいっそう増した。
対馬丸記念会の渡口眞常副理事長(74)は「対馬丸の疎開の始まりから10・10空襲へ続く舞台は今へのメッセージでもある。唱えも字幕でよく伝わってきた。今の子どもたちがつないでいく平和への継承はとても大事だ」と語った。
県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者で国立劇場おきなわ芸術監督の金城真次さん(36)は物語のナビゲーター「時の主」役として出演した。「通常の組踊にはない役で、対馬丸事件を学んでないと演じられないが感情的になりすぎてもいけない。難しい役どころ」と振り返った。物語の最後に客席に向けて平和について考え続けることを促す。「対馬丸を題材に、一人一人が平和や命の尊さを考え、伝えていってほしいというのが、作者の大城立裕先生の伝えたいことだと思う。最後に緞帳(どんちょう)が下りて拍手を聞いた時に、私たちの思いが通じたかなと思った」と話した。
4度目の上演。舞台の終わりに亡くなった子どもたちが舞い踊る。原作の大城さんから再脚本化を託された山城亜矢乃さんは「遺骨も拾えない死がまだたくさんある。暗く冷たい海でなく、そしてその後の沖縄戦の空襲や地上戦で亡くなった子どもたちも一緒に天に昇ってほしい」と意図を語り、世界で起きている今の戦争にも触れながら作品をつなぐ決意を新たにした。
(石井恭子、岩崎みどり)