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<書評>『終わらないPFOA汚染 公害温存システムのある国で』 日本社会の問題、白日の下に


<書評>『終わらないPFOA汚染 公害温存システムのある国で』 日本社会の問題、白日の下に 『終わらないPFOA汚染 公害温存システムのある国で』中川七海著 旬報社・1870円
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 沖縄の地元紙にはほぼ毎日、PFAS(有機フッ素化合物)汚染関連の記事が載る。しかし、この問題についての沖縄の人々の主たる関心は、県民の飲み水を供給している北谷浄水場の水がPFASで汚染され、その原因は米軍嘉手納基地だと思われるのに、日米地位協定が障害となって8年以上も立ち入り調査ができないでいることにある。そのため、自民党総裁選で石破茂氏が日米地位協定の改定の必要性を述べたのに、内外からの圧力があったのであろう、首相就任時の演説では一言も触れなかったことが大きく報じられた。沖縄のPFAS汚染は、日本国憲法の上に日米地位協定があるという日本社会の重大な問題を白日の下にさらしたのである。

 この本は、それとは全く異なる重大な問題を日本社会が抱えていることを、PFAS汚染が明らかにしたことを報じている。副題の「公害温存システムのある国で」がそれだ。水俣病問題に象徴される昭和の凄惨(せいさん)な公害に対して、日本社会は企業も自治体も、そして国も真正面から向き合うことはなかった。著者はこれを「公害温存システムのある国」と呼ぶ。この昭和のシステムが令和の今もそのまま生きているというのである。

 世界有数のPFAS汚染原因企業であるダイキンは、PFASの一種PFOAを長年にわたって大阪府摂津市で製造し、重大な環境汚染を引き起こしてきた。ところがダイキンだけでなく、地元自治体、そして国も、この問題に正面から向き合おうとしていない。米アラバマ州でのPFOA汚染について自社の責任を認め損害賠償を行い和解している企業が、桁違いに大きな日本国内での汚染についてははぐらかし続けている。「公害温存システムのある国」のままで良いのか、というのが著者の主張である。

 この本のあと一つの特色は、ダイキンが引き起こしたPFOA汚染についての、既成メディアの生ぬるい報道姿勢を歯に衣着せず批判していることだ。大広告主に対するメディアの忖度度合が強すぎることは日本社会が抱える大きな問題である。

 (桜井国俊・沖縄大名誉教授)


 なかがわ・ななみ 1992年大阪生まれ、ジャーナリスト。原発事故下の精神科病院で起きた患者死亡事件の検証報道「双葉病院 置き去り事件」でジャーナリズムXアワード大賞、ダイキン工業による化学物質汚染を描いた「公害PFOA」でPEPジャーナリズム大賞受賞。