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不当な値引き要求、残業も 「弱い者いじめ」に嘆き インボイス開始1カ月


不当な値引き要求、残業も 「弱い者いじめ」に嘆き インボイス開始1カ月 東京都内で開かれた企業の経理担当者の情報交換会=10月18日
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 消費税のインボイス(適格請求書)制度が始まって1カ月がたった。これまで消費税の納税を免除されていた零細事業者やフリーランスも制度に参加すれば新たな税負担が課せられることになったが、当面は様子見で登録を見送った人も多い。ただこうした免税事業者の税負担を肩代わりすることになる発注元から不当に値引きを求められる事例もあり、「弱い者いじめだ」との嘆きも漏れる。発注元では経理担当者らが「インボイス残業」に追われている。

 「複数税率の下で課税の適正性を確保するため必要な制度だ。廃止は考えていない」。10月25日の参院本会議の代表質問で、岸田文雄首相は強調した。反対の署名が50万を超え、野党から「事業者の声を無視している」と声が上がる中、あくまで適正な措置だと言い切ってみせた。制度開始の2日前になってようやく開いた初の関係閣僚会議では「政府一丸になって事業者が抱える不安を解消する」とも述べていたが、その後、目立った対応は打ち出していない。

 署名活動を行った「インボイス制度を考えるフリーランスの会」が10月に始めた実態調査では、文房具店や飲食店、美容院から発注元からの圧力に関する悩みが寄せられた。「消費税を払っていないのだから10%値引きしろと迫られた」などの訴えが目立つ。

 関東を中心に複数のオーケストラで活動する音楽家の30代男性も一部の契約先から書面で値下げを通知された。「立場が弱いので受け入れるが、制度に納得はしていない」と憤る。今のところ不参加を理由に契約の打ち切りまではされていないが「いずれは登録に追い込まれる」と予想する。

 東京都内では、多くの個人タクシー運転手が制度への登録を決めた。会社員が業務でタクシーを利用する際の経費精算でインボイスが必要になるためだ。運転手の一人(54)は「制度をきっかけに廃業を決めた高齢の運転手も多い。負担が増えるだけの制度だ」と話す。

 一方、発注元の企業も対応に追われている。登録事業者との取引では領収書や請求書をインボイス形式で発行してもらう必要があるが、社内の営業や購買部門でもまだ徹底していないためだ。

 経理の業務効率化を手がけるレイヤーX(東京)が10月18日に都内で開いた情報交換会では「登録事業者なのにインボイスを発行してくれない人がいる」などの声が相次いだ。