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県産スパイス発信へ 沖縄での栽培に可能性 やんばる畑人プロジェクト


県産スパイス発信へ 沖縄での栽培に可能性 やんばる畑人プロジェクト 名護市を中心とした本島北部で、やんばる畑人プロジェクトが栽培したスパイス
この記事を書いた人 Avatar photo 池田 哲平

 【名護】国内で生産が難しいスパイスを沖縄県内で安定的に生産しようと、本島北部の営農者でつくる団体「やんばる畑人プロジェクト」がスパイスの木の栽培に取り組んでいる。気候変動や世界情勢によって日本国内での供給量が安定しておらず、プロジェクトの芳野幸雄運営委員長は「やんばる発のスパイスの栽培や加工などを確立し、県内外に発信できれば」と意気込む。専門家は「亜熱帯、熱帯に栽培適性があるものが多く、沖縄はスパイスの栽培に適しているのではないか」と可能性に期待する。

畑の一角でスパイスを栽培する、やんばる畑人プロジェクトの芳野幸雄さん、右はオールスパイスの木=10日、名護市内
畑の一角でスパイスを栽培する、やんばる畑人プロジェクトの芳野幸雄さん、右はオールスパイスの木=10日、名護市内

 スパイス栽培は芳野さんらが約10年前に始めた。徐々に品種も増え、現在では名護市を中心にカレーリーフや、オールスパイス、パンダンリーフなど約20種類が収穫できるほどになった。

 沖縄は亜熱帯で降雨量も多いため、インドネシアやマレーシアなどで栽培されているスパイスは適性が高い。一方、北インドやネパールから中東原産のスパイスは乾燥を好むものが多く、それらの栽培には適していないとみられる。芳野さんらは、栽培の適性がない植物の代用として、ゲットウの実や、カラキを使うことなども検証している。

 食の長期的な課題や、食文化の変化を捉える探索と検証を続けているエスビー食品食文化未来研究所(東京)の南野新さんは「沖縄でスパイスが育つようになったのであれば、それも一つの食文化の進化と捉えられるのではないか」と分析する。

 南野さんによると、スパイスは生産国の経済発展により生産コストが上がり、価格が上昇傾向にある。さらに円安を受けて輸入コストも上がっており、日本国内での販売価格も上がっている。また、世界的な気候変動により降雨量や雨期にずれが生じてきており、安定供給に懸念が生じているという。

 カレーの主原料となるクミンは乾燥を好み、収穫期が近づくと特に雨に弱いが、通常は降らない収穫期に雨が降り、収穫に耐えられない品質になる例も出ている。マスタードの原料となるカラシナはカナダ、ロシア、ウクライナが一大産地となっているが、カナダの熱波や、戦争などの世界情勢によって供給量が激減している。

 やんばる畑人プロジェクトの芳野さんは、別の作物を栽培している畑の一角でさまざまなスパイスの木を植え付けている。育てて10年を超えるカレーリーフは3~4メートルの高さになるほどに成長しており、新鮮な葉が収穫できている。

 年に一度肥料を与えるだけでよい品種もあり、他の農産物と比較し、手を掛けなくても育てられる利点もあるという。芳野さんは「オールスパイスの葉とやんばるの若鶏を使ったジャークチキン、100%やんばる産のカレーなどができると地域として盛り上げることができるのではないか。乾燥や収穫、加工などの後工程を確立できれば、栽培を進めていけると思う」と語った。

 一つの土地にスパイスの樹木と農作物を一緒に植える育て方について、南野さんは「欧州などで注目されるアグロフォレストリー(森林農法)だ。熱帯性スパイスの多くがこのアグロフォレストリーを実践しており、環境負荷の少ない栽培という面でも注目している」と話した。

(池田哲平)