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「年々20~30人辞めている…」 観光部門で路線事業を穴埋め 「負の連鎖」県民にしわ寄せ <迫る24年問題・沖縄の現場から>(6)運転手(下)


「年々20~30人辞めている…」 観光部門で路線事業を穴埋め 「負の連鎖」県民にしわ寄せ <迫る24年問題・沖縄の現場から>(6)運転手(下) 帰宅のため混雑する県庁北口のバス停=21日、那覇市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「年々20~30人辞めているのが現状だろう」。路線バス運転手の男性は乗合から人材が流出する一因に、県内観光業の盛り上がりを挙げる。

 「2024年問題」対策で各社が減便や最終便を繰り上げする中、貸切バス事業は観光需要の回復で拡大傾向にある。「どうしても給与が高いところに引っ張られる。入ってくる人より出る人が多い。『24年問題』が直撃したらどうなるか」

 県民の足としての役割と、県経済の下支えを担うバス業界。運転手もその間で揺れ動いている。

>> <迫る24年問題・沖縄の現場から>(5)運転手(上)

 流動する人材の背景には、路線バス各社が抱える収益構造の課題がある。国土交通省によると、路線バス30両以上を保有する事業者の収支状況は全国合計で赤字が続く。沖縄も該当4社のうち、1~2社については黒字を確保できた年度もあるが、この10年で合計すると19年度を除き赤字となっている。

 バス会社関係者によると、減便により車両にかかる経費は抑えられる一方、1台当たりの輸送力は増える傾向にあるという。4月からの労務管理の徹底で人件費も下がる見通しで、「路線バス会社はある程度、収益が回復するだろう」と推測する。だが、抜本的な解決につながるかは不透明だ。「結局は経費に回るだけ。運転手の基本給が大きく見直されるかは分からない」(関係者)

 一方、沖縄総合事務局の運輸要覧によると、22年度末時点で沖縄本島の貸切バス事業者(路線兼業含む)は10年前の29社から34社に増えている。コロナ前は40社を上回っていた。コロナ禍で減った台数も回復してきている。営業収益は路線バスを上回る規模だ。

 路線バスで運転手経験のある男性は「減便はじり貧になるだけ。賃金が低くては働けない」と就業環境の厳しさを吐露する。

 各社とも観光部門の収益で路線事業を穴埋めしており、基本給の底上げという抜本的な課題には手が付けられていないのが実情だ。「負の連鎖が心配だ。しわ寄せは交通弱者にいく」。男性は、人材流出と減便の先にある、“県民の足の消失”に懸念を強めた。

 沖縄を含め、地方都市に広がる路線バス存続の危機。日本バス協会の清水一郎会長は16日、日本記者クラブで会見し、「全ての公共交通が公営となれば、さらに多額の税負担が発生するだろう。なくなってからでは手遅れだ」と指摘した。「自治体によるさらなる踏み込んだ支援が必要だ。乗って応援してもらうことが最大の支援となると思う」

 運転手の働き方改革と路線の維持の両立は、利用者を含め社会全体で向き合うことが求められている。 

(謝花史哲)
 (木―金曜日掲載)