手話・エイサー・バスガイドに挑戦し、可能性を探る「沖縄お笑い界の怪物ルーキー」<島袋忍さん>◇沖縄芸人ナビFILE.47(2ページ目)


この記事を書いた人 Avatar photo 饒波 貴子

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手話を学んで気付いた「伝えることの大切さ」

松田ナビ:手話のコメディー集団「劇団アラマンダ」からも声がかかったの?

島袋:はい、劇団を立ち上げる時に座長の(大屋)あゆみさんに声を掛けてもらいました。

松田ナビ:お笑いでは行かないような現場もあるだろうし本土にも行く。手話通訳士の方が舞台にいますか? そしてお笑いの感覚とはやっぱり違う?

島袋:全然違います。前は舞台に通訳士の方がいましたが、今は演者だけで手話を覚えてやっています。メンバーの又吉広人さんが脚本を書いていますが、ウケるところがお笑いとは全く違うんですよ。そして台本も手話も覚えるので、めちゃくちゃ時間がかかります。稽古しながらこの場面を変えてみようとか普通にあることですが、そうなると手話も覚え直すので大変です。文化の違いでろう者の方にダジャレが通じなかったりすることもあります。

松田ナビ:なるほど! アプローチを変えなければいけない面があるんだね。どういうボケがウケやすいと感じる?

島袋:見て分かりやすいボケ。エイサーの場面ならチョンダラーが出てきて・・・みたいな感じがウケると思っています。

松田ナビ:キャラが立っているような笑いが伝わりやすそう。手話はどうですか?

手話で喜劇を演じる「劇団アラマンダ」の旗揚げメンバーとして活躍中

島袋:最初は「おはよう」もできないレベルでした。「おはよう」という手話は、「朝」と「あいさつ」の組み合わせ。「こんにちは」は顔を時計に見立てて、長針と短針を重ねて12時にします。でもまず単語を覚えて、その上に文法も覚えなければいけません。英語の文法と同じですが難しいですよ。

松田ナビ:すごい! フリートークも手話でやっている!?

島袋:ちょっとした会話ができる程度は覚えました。先輩の寺崎ガザオさんはイジられキャラで、めっちゃ面白いじゃないですか。アラマンダでもイジられるんですけど、手話では反論できないんですよ(笑)。手話を間違えてもイジります。

松田ナビ:「コイツは手話ができないんですよ」とツッコめて、手話でしっかりイジることができるんだね。アラマンダの経験で気付いたことは?

島袋:伝えることの大切さに気付きました。お客さんがどうやったら自分と同じように、このボケを面白がってくれるのか、など考えるようになりました。アラマンダに入る前は、ただ自分がやりたいことをやっていたんです。

松田ナビ:ピンの芸人さんはやりたいことを先行するイメージがある。それもいいけれど、伝えることも重要だと思えるね。手話の練習は最近どんな感じですか?

島袋:基本的には週に1回練習しています。芸人は舞台に向けて稽古するのが多いですが、アラマンダは舞台がなくても週1で集まります。

松田ナビ:それはすごい! 他にもエイサーなどいろいろやっている。

よしもと沖縄の芸人で結成した「吉本橙風太鼓」でエイサーを披露

島袋:「吉本橙風太鼓」という団体名で、週に1〜2回はエイサーの練習をしています。そしてオリオンリーグの玉代勢さんと、バスガイドもやっています。去年研修を受けて週に1〜2回実車して、座喜味城跡や東南植物楽園など中部を案内するコースを担当しました。お客さんは数人の日もありましたが多い時は30人くらい。今年も秋以降に予定があります。

松田ナビ:バスガイドは、どのタイミングでしゃべる? 長時間しゃべる機会はないでしょう。

2023年から、那覇バスの「定期観光バス」でガイドを担当

島袋:バスターミナルでお客さまを乗せて、高速での移動中に40分くらい話していますよ。

松田ナビ:40分! そんなに話すことないない(笑)。

島袋:台本がありますし、自分で勉強したことや高速から見える景色についてもガイドします。本土の方が多いですがお城マニアもいらっしゃって細かく質問されるので、めちゃくちゃ勉強しました。座喜味城跡には護佐丸が中国から習ってきた技術が使われていたり、沖縄戦の影響を受けた部分があったり。そして沖縄のお城は台風が来ても雨風をしのぐ構造で曲線が多いなど、いろいろあるんですよ。

松田ナビ:沖縄ならではの特徴を伝えると、マニアの人も喜ぶでしょう。でもお城の知識だけを入れる訳にはいかないし、その土俵だけで戦いたくはないな(笑)。バスガイドの経験でトークは鍛えられただろうね。

島袋:渋滞もあるので、30分で着くところが1時間かかったりもして、その分の話題もストックしておかないといけません。大変ですがやって良かったと思っています。今まで自分は沖縄のことを全然知らなかったことに気付きました。

松田ナビ:「しばしご歓談」ってことにできないの(笑)?

島袋:一応芸人ガイドだから、しゃべる空気なんですよ(笑)。「那覇バス定期観光コース」ですからどんなお客さまが利用するのも分からず、鍛えられました。

松田ナビ:ライブ会場みたいで、すごいけど過酷。バスガイドもエイサーもやってアラマンダで手話。激務だな。

島袋:そうですけど、自分はひとつのことだけをできないかもしれないと思うんですよ。いろいろ並行しながらやっているのが性に合っていると感じます。