防疫・医療体制の充実と観光推進は表裏一体 東良和氏(沖縄ツーリスト代表取締役会長)<大型寄稿・コロナ禍の先へ>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 1月16日、厚労省が国内最初の感染者を発表してから観光業界のコロナ禍は始まった。以降、大量のキャンセルが発生し新規予約はゼロとなる。流通を担う旅行会社は最初から大きな損害を受けてきた。

 4カ月がたち、今や世界中の経済が深刻な状況に陥っている。特にリアルな経済活動である飲食、サービス、観光は、甚大な被害が続いている。沖縄は第3次産業の比率が高いのでなおさらである。

 4月23日には沖縄県も緊急事態宣言の下、知事から自粛要請が出され、解除後も事業者は戸惑いを隠せない。5月25日には全国的にも解除されたが、その間、一体何が整備され充実したのかを検証し明らかにする必要があると考える。

 業種別ガイドラインの策定・実行は非常に大切なことと認めるが、経済を復活させるために最も重要なことは、防疫体制と医療の受け入れ体制の環境整備だと考えるからだ。

 政府は「Go to Travel」キャンペーンとして1兆3千億円という前代未聞の予算を準備した。未曽有の苦境にさらされている全国の地域経済の再生には観光が最も有効であるということの表れだ。しかし、この予算も地域での防疫・医療体制が整備されていなければ絵に描いた餅となる。医療崩壊への危機感が観光客受け入れの阻害要因となり、結果、地域経済は壊滅の一途をたどりかねない。

 緊急事態宣言・自粛要請は感染爆発による医療崩壊を防ぐための時間稼ぎの「手段」であったはずだ。その間、PCR検査は、医療現場での防護具やマンパワーは、北部や離島の病床確保は、どれだけ整備され充実したのだろうか。

 また、マスメディアが自粛そのものを目的化していないか。「人出」を減らすのは手段であり目的ではない。GPSデータによる「人出」の増減を報道するのもいいが、地域の検査体制、受け入れ体制の最新情報、その推移を報道することの方が重要だと思う。

 個人事業者を含む企業の営みは税金を納める側の市民の生活と生命を支える大切な社会維持機能である。安易に「人出」だけを非難してほしくない。
 感染者ゼロが続いている間に、秋冬にくる第二、三波に向けて早急に体制を整えるべきだ。オーバーシュートを免れて「緩み」が出ているのは、政治や縦割り官庁の方だと感じている。具体的には、県外と沖縄を結ぶ空港・港湾において発熱者に対するPCR検査を徹底してほしい。そして、県の予算で隔離対策を講じてほしい。出来ない理由は並べないでほしい。

 訪日旅行に関しても、これまでの大きな市場であった台湾や韓国は、検査・防疫体制で世界的な評価を受けている。沖縄側が「安心・安全」を示せてこそ相手に選ばれる観光地となる。

 過去に沖縄観光は米国同時多発テロで修学旅行を中心に甚大な風評被害を受けた。その後、風評被害を防ぐ対策として県費で先生やPTA役員の下見を実施し「安心・安全」の確保に成功した。前述の予算措置もきっとできると信じている。

 防疫・医療体制の充実と観光推進は表裏一体であることを再度強調したい。

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 ひがし・よしかず 1960年那覇市生まれ。早稲田大学卒業後、日本航空勤務を経て米コーネル大学大学院修了(ホスピタリティ経営学修士)。90年に沖縄ツーリスト入社。2004年に代表取締役社長就任、14年から現職。

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 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、沖縄県が出した活動自粛・休業要請は解除された。しかし、活動制限が市民生活や経済に与えた打撃は今後も続く。感染防止対策や「新しい生活様式」が働き方や人と人との接し方を変え、ひいては人々の意識を変えていく可能性がある。「コロナ禍の先に」あるものは何か。県内外の有識者に示してもらう。  (随時掲載)