米への過剰依存脱却し、主権回復を 寺島実郎氏(日本総合研究所会長)<大型寄稿・コロナ禍の先へ>


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寺島実郎氏

 新型コロナウイルス問題は東アジアの地殻変動をもたらした。昨年まで、米中二極といわれた構造が大きく変わった。コロナ対応を巡って、米中ともに世界の失望を招き、「極」構造を牽引(けんいん)する指導国としての求心力を失った。

 中国は、昨年夏からの香港問題への対応を巡り、強権化する習近平政権への警戒心を高めさせ、台湾の中国離反を招き、蔡英文政権の総統選挙における再選(1月)をもたらした。中国は台湾のWHO(世界保健機関)加盟を妨害してきたが、台湾はコロナ対応で成果を挙げ、国際社会での評価を高めた。世界の「脱・中国」というべき動きをいかにして引き戻すのか、中国の苦闘は続く。

 米トランプ政権はコロナへの初期対応に失敗し、10万人に迫る死者を出す事態を招いている。責任を中国やWHOに押し付け、WHOへの拠出さえ凍結する動きを見せるが、世界の指導国としての存在感を失いつつある。「超大国」と言われてきた国が、極端な格差と貧困という問題を抱え、健康保険制度や医療制度に重大な欠陥を抱えた国であることを露呈した。

 同盟国をリードする力も劣化し、とくに米韓関係が揺らぎ始めた。文在寅政権に対して在韓米軍基地の費用負担増などで圧力をかけてきたが、積極的PCR検査の実施などのコロナ対応で国民の評価を高めた文政権が四・一五総選挙で圧勝、政権基盤を安定させて米国と向き合い始めている。「ミサイルよりコロナ」という形で、北朝鮮の軍事的脅威が現実的に後退しており、韓国は「脱米、対中関係強化」へと動いている。

 米中対立が、コロナ問題を巡りエスカレートしている現状の中で、台湾を巡る米中の軍事的緊張さえ視界に入れざるをえない中で、忘れてはならない事実がある。それは「台湾には米軍基地はない」ということである。そのことは、台湾海峡有事の時は、自動的に沖縄の米軍基地が紛争に巻き込まれる可能性が高いことを意味する。米中の緊張に巻き込まれ、「アメリカの戦争」に引き込まれる危険を回避する知恵が求められる。日本が東アジアで主体的に平和を構築する役割を強く意識するべき時である。

 北は三沢から南は沖縄まで、日本におけるすべての米軍基地、施設を見直し、東アジアの安全に不可欠なものへと段階的に縮小し、地位協定の改定によって主権を回復していく意思を示すべき局面である。米国への過剰依存で日本の安全が確保できる時代ではない。

 2000年の時点で、日本を除くアジアのGDPは日本の半分であったが、昨年は日本の4倍を超した。5年後には10倍を超すであろう。アジアのダイナミズムを吸収することが、ポスト・コロナの日本の課題となるが、それは経済的利害だけではなく、アジアとの相互信頼の構築が不可欠となる。

 成熟した民主国家として、技術をもった産業国家として、アジアの敬愛を受ける日本でなくてはならない。日米同盟を大切にしながらも、「米国を通じてしか世界を見ない」という状況から脱皮しなければ、日本の未来は拓(ひら)けない。
 (随時掲載)

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 てらしま・じつろう 1947年、北海道生まれ。早大大学院修士課程修了。三井物産戦略研究所所長などを経て現在、日本総合研究所会長、多摩大学学長。

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 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、沖縄県が出した活動自粛・休業要請は解除された。しかし、活動制限が市民生活や経済に与えた打撃は今後も続く。感染防止対策や「新しい生活様式」が働き方や人と人との接し方を変え、ひいては人々の意識を変えていく可能性がある。「コロナ禍の先に」あるものは何か。県内外の有識者に示してもらう。