「国防軍名護基地」と東南アジア…「サイコパス」シリーズが描く過去と未来(4)<アニメは沖縄の夢を見るか>


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挿絵・吉川由季恵

 「サイコパス」シリーズは、サイバネティクスやドローン、ホログラムの技術が発達した近未来社会の葛藤を描くSFアニメだ。約100年後の日本では、カメラやスキャナーで市民を監視し、シビュラシステムがその心性を数値化している。そんな管理社会で治安維持を担当するのが、厚生労働省公安局刑事課の刑事たちだ。彼らは人の犯罪心性を計測できる特殊な銃を携行し、犯罪係数の高い対象者を殺処分する権限を与えられている。

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 沖縄が舞台となるのは新・劇場版3部作『サイコパス Sinners of the System』(2019)の第2話だ。

 2112年、国防軍は名護に駐屯する特殊部隊を東南アジアの紛争地域に投入し、極秘の軍事作戦に踏み切る。だが作戦は失敗して大友が率いる地上部隊は見捨てられ、須郷が操縦するジェットドローンには補給物資を投下して即時帰投せよとの命令が下る。大友は消息不明のまま戦死扱いとなって妻の燐は流産し、心性が悪化した須郷は訓練から外されてしまう。

 そして作戦実施から3カ月後、東京の国防省ビルが重火器で武装したドローンに襲われ、幹部が死傷した。事件の捜査のため、公安局刑事課から2人の刑事が沖縄に派遣される。失敗した作戦は国防軍が外務省高官と手を組んで行ったもので、須郷が投下したのは補給物資などではなかった。大友が残したマイクロチップには、旧在沖米軍が地中の秘密基地に放置した原子力潜水艦の情報があり、燐はそれを復讐(ふくしゅう)に使おうとする。

 捨て駒にされた大友の無念、大量殺りくに関与した須郷の苦悩、夫を見捨てた上層部に対する燐の憎しみ、そして彼女に寄せる須郷の秘めた思いなど、悲しく切ないトーンが本作の基調をなしている。

 その一方で、100年後も沖縄では実弾演習が行われ、名護市辺野古のキャンプ・シュワブは国防軍の名護基地として引き継がれている。

 また東南アジアでの軍事作戦は、かつて米軍が枯葉剤やナパーム弾を使用し、嘉手納基地からB―52を出撃させたベトナム戦争を想起させる。旧在沖米軍の原子力潜水艦も含め、まるで米軍統治時代の悪夢が呼び覚まされたような印象だ。しかも国防軍の作戦監視官は高江洲という沖縄姓を持ち、劇中にはオスプレイ風のティルトローター機も登場していた。

 本作に描かれた近未来の沖縄は、入り組んだ形で過去や現在の沖縄を包摂しているのだ。優れた娯楽エンターテインメントなればこそ、沖縄に向けられたまなざしが何を映し、そこにどんな欲望や契機が隠れているのかが浮き彫りになっている。
 (岡山大学大学院非常勤講師)