歌の力で支援「何度でも立ち上がる」繋がったアーティストたち(3)<再建に描く未来・首里城焼失1年>


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 高台にたたずむ優雅な首里城の姿をゆったりとしたバイオリンの音で表現する「SYURI NO UTA」。国内外で活動するバイオリニストの竜馬さん(35)=東京在住=が昨年12月、首里城再建に思いをはせて作った。チャリティーコンサートなどで沖縄を何度も訪れた竜馬さんは10月31日未明に発生した火災を朝のニュースで知った。「音楽家として何かできないか」とこの曲を作った。販売利益を首里城再建に寄付しようとしていたところ、曲の動画が県内在住の会社員・花牟礼真一さん(56)の目に留まる。そこから県内アーティストたちを巻き込んだプロジェクトに発展していった。

首里城再建に思いを寄せる楽曲「SYURI NO UTA」をレコーディングする県内アーティストや沖縄市ジュニア合唱団のメンバー=9月29日、嘉手納町マルチメディアセンター

 原曲は歌詞がないインストゥルメンタルだった。動画を見た花牟礼さんは県内アーティストが参加する形で歌詞を付けた楽曲を作る企画を考案。歌手の仲田まさえさん、前田秀幸さん、金城しおりさん、2人組ボーカルユニット「5th Elements」らが賛同し、参加した。

 制作費はクラウドファンディングで募り、目標額350万円を超える440万円が集まった。アーティストはボランティアで参加し、沖縄市ジュニア合唱団も加わった。アルバムには参加アーティストそれぞれが首里城再建への思いを込めたオリジナル曲も収録した。

 商社に勤務する花牟礼さんは2011年、東北支社勤務中に東日本大震災を経験した。被災地を目の当たりにして「生きる意味」を考えるようになり、被災地支援などに携わってきた。その後の転勤で沖縄に来て4年になる。

 参加アーティストの一人、前田秀幸さん(34)には首里城への思い入れがある。県無形文化財「琉球漆器」保持者で焼失前の首里城正殿にあった国王用の椅子「螺鈿(らでん)玉座」などを復元した故・前田孝允さんは親戚に当たる。自身の三線の螺鈿も孝允さんが作製した。1995年には小学生で首里城「中秋の宴」に出演した。首里城は自信を築いた場所だった。昨年、首里城が焼ける様子を見た秀幸さんは「首里城で歌った日の記憶がよみがえり、自分が焼かれるような思いで涙が止まらなかった」。だが気持ちは変わった。アルバムに収録するオリジナル曲「グスク」では「ひやみかせ!」と再建への思いをまっすぐに込めた。

 全員が参加する「SYURI NO UTA」の歌詞は5th Elementsが手掛けた。首里城への思いだけでなく、幾度の苦難を乗り越えてきた琉球、沖縄の歴史にも触れる。転んでも、何度でも立ち上がる―。そんなメッセージを込めた曲になった。CDは焼失から1年の31日に発売、売り上げの一部は首里城再建に寄付される。

【動画】SYURI NO UTA  繋がったアーティストたち <再建に描く未来・首里城焼失1年>

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