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沖縄ツーリスト嵐の1年(下)「非接触」「ネット」でV字回復を コロナ後へ進化の芽<変革沖縄経済>7


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非接触での対応が可能となるレンタカーの顔認証サービスを実演する沖縄ツーリストレンタカー部の小橋川信二統括課長=1日、豊見城市豊崎

 沖縄を訪れる観光客やビジネスマンは空港に到着後、レンタカー営業所に向かう車内で、予約時に登録した免許証と自身の顔をスマートフォンなどで照合し、注意事項を確認して電子署名をする。営業所では鍵を受け渡すだけとなり、受け付けの非対面化と手続き時間の短縮が図られる。

 コロナ禍によって生じた「非接触」のサービス需要に応えるため、沖縄ツーリスト(OTS)が導入した受付時の顔認証技術だ。

 カーナビメーカーのデンソーテンが開発した技術を活用しており、レンタカー部の小橋川信二統括課長は「混雑を避け、お客さまも従業員も感染リスクを減らすことができる」と話す。

 遠隔で本人確認ができれば、営業所に行かなくても車の貸し出しは可能になる。4月以降は、夜間に空港に到着した旅行者など一部の客を対象に、ホテルに配車してフロントで鍵を渡すことで営業時間外の貸し出しも検討している。将来的には無人で鍵を受け渡し、完全な非接触を実現する構想もある。

 OTSの東良和会長は、那覇空港第2滑走路の完成により、仕事を終えた後の便で真夜中に到着する観光客が増加すると見込む。レンタカーの手続き待ちなどのストレスなく観光に移れる環境を整備することで、宿泊日数や消費単価の向上など、沖縄観光の課題解決につなげることができると考えている。

 「旅行会社の付加価値はワンストップで満足度の高いサービスを提供する部分にある」と語り、コロナ禍をばねに進化を目指す。

 一方で、社会のデジタル化に伴い、旅行業界には構造的な変化の波も起きている。コロナ以前から、実店舗を持つ旅行会社は、ネット上で旅行の予約を完結させるOTA(オンライン・トラベル・エージェント)との激しい競争にさらされてきた。旅行業界以外の他業種からの進出も多く、特にホテルや航空券など特定の分野に特化した販売サイトは、低価格を武器に売り上げを伸ばしていた。

 こうした中で20年4月に、日本航空(JAL)と全日空(ANA)が、空席に連動して航空運賃が変動する新個人型包括旅行運賃(新IIT)を導入した。大手やOTA以外の中小の旅行会社も、需給状況によって価格を変動させる、ダイナミックプライシングを導入することが可能となり、混雑する日や時間帯を避けると安い価格で旅行ができるようになった。

 ただし、航空運賃が常に変動することから、パンフレットに明確な料金を記載することが事実上不可能となったため、ネット販売の存在感が一層大きくなる。OTSは、18年に航空券と宿泊の自由な組み合わせを選べる予約サイトを開設するなど、新IITの開始を見据えてウェブ戦略やデジタル対応を進めていた。

 新IITの開始により価格面でOTAと同じ土俵で競争力を得て、地元旅行会社として長年培ってきたきめ細かなサービスを掛け合わせた、ハイブリッド型で展開する。東会長は「コロナ収束後は、OTAや大手旅行会社にも十分対抗できる」と好機を見据える。

 東会長は、ワクチン接種によって夏以降に人の動きが戻ると予測し、新技術の活用や新制度を生かしてV字回復を目指す。21年には、東京営業所が開設から55周年を迎える。黎明(れいめい)期から沖縄観光を支えてきた自負がある。「沖縄観光の復活なくしてOTSの復活はあり得ない。沖縄観光の復活を率先して引っ張っていくことが、我々の存在意義だと思っている」と決意を新たにした。
 (変革沖縄経済取材班 沖田有吾)

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