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自粛と緩和の繰り返し…観光と医療の連携で危機に強い沖縄へ<変革沖縄経済>12


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
発熱した旅行者の相談などを受け付ける旅行者専用相談センター沖縄(TACO)=15日、那覇空港

written by中村優希

 強力な初動対応で新型コロナウイルスを封じ込めた台湾と対照的に、日本では拡大の波が収まらず、人の移動の自粛と緩和の繰り返しで観光業を中心に経済は疲弊してきた。

 中国での新型コロナ発生を受けて県は、昨年1月末に対策本部会議を実施し、情報収集に動いた。だが、防疫体制の構築までには至らなかった。横浜港の寄港の際に船内集団感染となったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が、2月1日に那覇港に寄港していた。那覇で下船した乗船客を乗せたタクシー運転手が、県内で最初の感染事例となった。

 当時はまだマスクの着用率も低く、市中で感染防止の意識や対策方法の周知も高まっていなかった。その後、日本国内の感染拡大に伴って、県内でも感染者が拡大していった。

 県内で感染者が確認されて2カ月後の4月、玉城デニー知事は初めて来県自粛を呼び掛けた。離島の医療資源を圧迫する事態を避けるため、沖縄観光の書き入れ時である大型連休を前に悩んだ末の判断だった。5月に新規感染者をゼロに抑えたが、飲食店や福祉施設など各地でクラスター(感染者集団)が相次ぎ、8月には再び緊急事態宣言を発令することになる。

 経済界は、感染防止と経済の両立に向けて、空港や港湾での水際対策強化や医療体制の拡充など、コロナ対策の強化を県に要望してきた。だが、なかなか有効な対策は取れず、病床が逼迫(ひっぱく)するたびに経済活動の自粛を繰り返してきた。

 今年に入り世界的にワクチン接種が本格化し、日本でも17日に医療従事者への先行接種が始まった。収束への期待が高まる。

 沖縄国際大学経済学部の前泊博盛教授は「人権などの問題にも関わってくるので、台湾のような移動の制限は難しい。今後、観光客受け入れに向けて、渡航者のワクチンの接種率を高めるなど、医療体制の構築が観光にとっても重要となる」と話す。

 今後のクルーズ船受け入れ再開を見据え、県は今年1月に「県クルーズ船受入全体協議会」を立ち上げた。県全体でクルーズ船の受け入れ体制の統一を図る。港湾や医療、行政、観光関係者らが参加し、船内で感染が発生した場合を想定した作業の流れを構築している。感染者の船内隔離やPCR検査体制の整備など、新たなガイドラインもできている。

 一方で、現在の国のガイドラインでは、仮に船で感染者が出て寄港先の病院で受け入られなかった場合、最終港が船を受け入れることになる。大型クルーズ船には千人単位で乗船しており、沖縄が最終港となると、医療機関などでの受け入れ体制が整えられるのかという課題もある。

 県港湾課の下地良彦副参事は「クルーズの予約は半年前に入ってくるので、感染者が出た場合の病床を事前に想定する必要がある」と話す。

 那覇空港をはじめ県内5空港では、発熱した旅行者の相談などを受け付ける「旅行者専用相談センター沖縄(TACO)」が昨年6月に開所した。

 玄関口の空港で早期に発熱者を確認し、市中で感染を広げる前に検査につなぐ狙いとして設置された。しかし、感染しても発熱を伴わない無症状者もいるなど、TACOでの水際対策に限界も指摘される。設置から約8カ月がたつが、検査につないだ事例は4件にとどまっている。

 検査体制の強化として、今年1月に那覇空港で対象者を限定してPCR検査が始まったものの、離島空港での整備は実現していない。県によると離島は民間の検査センターが拡充していないなど、空港で検体を採取しても検査する受け皿がないという。

 感染症のリスクに強い「安全・安心な島」の実現に向け、観光と医療の連携強化は模索が続く。

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