今回はアニメにおける沖縄ブームの影響を、言葉の面から確認してみたい。例えば「海人(うみんちゅ)」は本土でもよく知られた言葉の一つだろう。「海人Tシャツ」は国際通りあたりの観光土産の定番だが、アニメでも八重山が舞台となる『GTO』(1999―2000)の38話に、「湘南の海人と呼ばれた男よ」という鬼塚のセリフが出てくる。
『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』(2014)では沖縄出身の我那覇響が「なんくるないさぁ」、『南鎌倉高校女子自転車部』(2017)では沖縄の離島から来た比嘉夏海が「あきさみよ」などと口にする。言葉でキャラクターの地元が表現されるのは沖縄出身者に限った話ではないが、夏海が連発する「ちばって」「ちばろうよ」といった言葉遣いには、戸惑いを感じる人もいるのではないか。
さらに近未来SF『攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG』(2004―05)の第20話では、日本に返還された択捉島でロシア系住民と「やまとん」のあつれきが描かれている。この呼称は「やまとんちゅ」にヒントを得たものだろう。一方、『エウレカセブンAO』(2012)の物語は、日本から独立した2025年の沖縄を舞台に始まる。主人公のアオが養祖父と暮らす磐戸島は、沖縄諸島連合に属しているものの、日本と中国が領有権を主張しているという設定だ。島を走る車は竹富町ナンバーを付けており、地理的には八重山地方ということになろう。
本作は人型の巨大戦闘ロボットが活躍する『交響詩篇エウレカセブン』(2005―06)の続編で、初期の「機動戦士ガンダム」シリーズや前回取り上げた「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズから大きな影響を受けている。内容の詳しい紹介は稿を改めるとして、ここではアオが搭乗する人型兵器のニルヴァーシュが、島人から「うみきょんちゅ」と呼ばれている点に注目したい。海にまつわる沖縄の神話や伝説に由来する名前なのかと思って調べたが、どうやら最初に挙げた「海人」の間に「巨(きょ)」を挿入した「海巨人(うみきょんちゅ)」という造語らしい。
もう一つ、伊豆を舞台にダイビング部の女子高生たちを描いた天野こずえ原作のアニメ『あまんちゅ!』(2016)のタイトルも、旧佐敷町(現在は南城市)など沖縄各地に伝わる巨人の「天人(あまんちゅ)」とは直接関係がなく、「海女」と「海人」から合成された「海女人」という造語だろう。劇中にはダイビングサービスを手がける「海女人屋」という海の家も出てくる。こうした造語が言語学的にどう位置づけられるのかは知らないが、素人目には沖縄文化の浸透というよりも、むしろ本土文化の膨張のように映る。
(岡山大学大学院非常勤講師)