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電子商取引、中小業者や農家の「かかりつけ医」に…導入支援「おきまる」の取り組み<変革沖縄経済>20


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日本刀鍛錬所「兼工房」の兼濱清周氏(右)と毎週打ち合わせをするおきまるの具志堅好一代表(左)=12日、南城市大里の兼工房

written by 沖田有吾

 地理的制約にかかわらずビジネスが展開できる電子商取引(EC)の可能性は、新型コロナウイルスの感染拡大前から期待されていた。特に自社でECサイトを構築すれば、大手モールのような手数料が不要で、類似の他社商品と競合して価格競争に陥るのを防ぐことができる。

 近年、さまざまなツールが普及し、自社ECサイトの構築は以前に比べて容易になった。しかし、依然として中小企業や個人事業主にとっては、スキルや維持管理の手間というハードルがある。

 「デジタル技術による地域課題解決」を掲げるおきまる(那覇市、具志堅好一代表)は、「売ることのストレスを感じずに、生産者が作ることに専念してほしい」と、農家や職人など作り手の価値の最大化に取り組んでいる。

 沖縄を含め全国で新型コロナウイルスの感染が拡大し、全国に緊急事態宣言が出された2020年4月、伊江島で葉タバコや島ラッキョウなどを生産するちねん農園は、苦境に立たされていた。飲食店やホテルの休業を受けて、島ラッキョウの需要は急激に落ち込み、価格はコロナ以前の約3分の1まで暴落した。

 知念賢作代表は「出荷しても赤字という状態だった。急に価格が落ち込んだので、とにかく急いでさばく必要があった」と振り返る。

 相談を受けた具志堅氏は、EC構築ツール「BASE」を活用して、短期間でちねん農園のECサイトを立ち上げた。SNSでレシピを発信し、良質な島ラッキョウが割安で購入できることもあって県外からも注文が相次ぎ、栽培用の種も含めて完売した。

 知念代表は「慣れれば自分たちで運用はできるけれど、ゼロを1にして始めるまでが大変。サポートしてもらえて良かった」と話す。コロナ禍の収束後も、ECを活用して販売価格を安定させられるのではないかと期待している。

 県内唯一の日本刀工房である日本刀鍛錬所兼(かねる)工房(南城市)のオンラインショップには、柄やさやに漆工芸の装飾を施した装身具の「琉球刀子」や、ユシギ(イスノキ)製の文鎮など、世界でここにしかない一点物が並ぶ。今年1月、おきまると二人三脚でホームページを大幅にリニューアルし、ECに乗り出した。

 兼工房の兼濱清周氏は、長野県で日本刀鍛冶の修行を積んだ。漆工芸職人の妻・淳子さんと共に、刀子や文鎮などを作成している。以前は外国人観光客が来て、製作体験や作品を購入することもあったが、コロナ禍で観光客が減少し、工房を訪れる人もほとんどいなくなった。

 コロナ禍の前からネットでの販売を考えていたが、知識や技術の壁は高く、費用面で外注にも踏み切れずにいた。銀行から紹介を受けて、おきまるに相談し、売り上げから1割を支払う方式にすることで導入費用を抑えた。具志堅氏とは週1回打ち合わせをし、EC以外のことも相談している。兼濱氏は「信頼関係があって、かかりつけのお医者さんのような存在。作ることに集中できるのはとても大きい」と話す。

 まだECからの売り上げにはつながっていないが、今後はサイトを改良して、プロモーションを展開していく予定という。

 具志堅氏は「沖縄には良い物がたくさんある。ダイレクトに発信できれば、作り手の可能性はもっと広がる。最終的には、沖縄の農家や伝統工芸を集約したポータルサイトを作りたい」と目標を話した。

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