「福島のことを忘れないで」父を自死で失った農家の苦悩描いた映画「大地を受け継ぐ」 井上監督に聞く


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ

 2011年3月の東京電力福島第1原発事故で被災し、父親を自死で失った農家の苦悩を描いたドキュメンタリー映画「大地を受け継ぐ」(15年制作、86分)が11日から、沖縄市のシアタードーナツ・オキナワで上映されている。震災10年の「節目」に全国各地で再上映される中、県内初上映となる。監督の井上淳一さん(55)=東京都=は「3・11」を境に震災報道が激減するとし、「3月12日からが本当の勝負。福島のことを忘れてはいけない」と訴える。

映画「大地を受け継ぐ」の一場面。原発事故後、父親を自死で失った樽川和也さんが学生らに語り掛ける(ⓒ「大地を受け継ぐ」製作運動体)

 15年5月、東京の学生11人が、福島県須賀川市の8代目農家、樽川(たるかわ)和也さんの元を訪ねた。樽川さんの父は、放射能汚染でキャベツの出荷停止連絡があった翌朝、自ら命を絶った。樽川さんは学生の前で、原発事故後も農業を続ける苦悩や葛藤を訥々(とつとつ)と語る。時に涙を流しながら、耳を傾ける学生。映画はその様子を静かに記録している。

 16年の初上映の際、井上監督は福島で「あの学生たちだって、忘れるだけでしょ」と言われた。それに対し「でも、知らなければ何も始まらない」と答えた。その思いは今も変わらない。

井上淳一監督

 原発事故から10年。井上監督は「福島は放置されている」とし「脱炭素化を免罪符に、政府からは原発再稼働どころか新設の話まで出ている。福島の人は今も、地震があれば『原発は大丈夫か?』と不安になる。何も変わっていないし、何も終わっていない。理不尽な現実はずっと続いている」と強調する。

 県内での上映は31日まで。井上監督は「沖縄と福島には、同じような痛みがあると思う。それぞれの怒りや痛みが表に出て、うまくつながればいい。福島に思いをはせてもらえたら」と来場を呼び掛けている。(真崎裕史通信員)