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ウチナーグチを話す作品 琉米日の関係裏返しも <アニメは沖縄の夢を見るか>(12)


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挿絵・吉川由季恵

 アニメの中でも登場人物が沖縄風のイントネーションを使うケースがある。例えば劇場版『のんのんびより ばけーしょん』(2018)に登場する、竹富島の宿の娘・新里あおいもそうした例の一つだ。声は沖縄出身の下地紫野(しもじ・しの)が担当していた。さらには登場人物がウチナーグチで話す作品として、「アイドリッシュセブン」シリーズがある。

 これはスマホのイケメンアイドル・ゲームをアニメ化したもので、人気グループTRIGGERの十(つなし)龍之介が沖縄出身という設定だ。上京して間もない頃は、沖縄の父親に電話で「わん、ちばるからさ。おとうもよんなよー」と語り掛け、「ひーさーよ、ここはありんくりんうちなーやあらん」と心の中でつぶやく。標準語の字幕はつかない。龍之介の声を担当した佐藤拓也は宮城県出身だが、ここでのウチナーグチは郷里を離れて暮らす若者の孤独と寄る辺なさを浮かび上がらせている。

 龍之介はプロダクションの社長から「訛(なま)りがひどいな。東京では標準語で話せ。方言を使うタレントはコメディアン視される、君には不要な個性だ」と告げられる。ただし、その後も酔っ払ったり興奮したりすると「わかたん、わんにまかちょーけ」「うりうり」「やー、たっくるさりんどー、ふらーが」などとウチナーグチやウチナーヤマトグチが飛び出す。本作の龍之介や「THE IDOLM@STER」シリーズの我那覇響が登場する背景には、もちろん沖縄出身アイドルたちの発掘と活躍という1990年代以降の状況がある。

 一方、『ポプテピピック』(2018)については、沖縄国際大学の西岡敏から情報をもらった。これは大川ぶくぶの4コマ漫画が原作で、凸凹コンビのポプ子とピピ美がシュールなギャグを展開するアニメだ。その第9話の「奇跡とダンスを」は、後にニューヨーク市長となるジョゼフがポプ子とピピ美に出会った少年時代のエピソードを回想する。前半のパートではジョセフのセリフやナレーションが英語だったのに対し、同じエピソードがくり返される後半のパートでは、英語ではなくウチナーグチで語られる。

 ポプ子とピピ美がニューヨークにいること自体が一種の異化効果を生んでいるのだが、その効果はウチナーグチが使われることで多重化し、琉米日の関係を裏返しにしてみせる。ウチナーグチの翻訳には新垣正弘の名前がクレジットされ、ジョセフの声は少年期を下地紫野、市長になってからを久米島出身の新垣(しんがき)樽助(たるすけ)が担当している。ディレクターの青木純も沖縄出身で、NHK沖縄のアニメ「うちなー昔話」を演出していたことがある。

(岡山大学大学院非常勤講師)