超党派の公開書簡 基地閉鎖を求める九の理由<乗松聡子の眼>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 本紙でも報道されているように、3月4日、「海外基地再編・閉鎖のための連合」(OBRACC)が、超党派の識者や活動家43人が署名した、バイデン政権へ海外米軍基地を閉鎖していくよう促す公開書簡を発表した。私も署名者の一人である。これは、2月初頭にバイデン政権が、「米国の外交政策と安全保障の優先順位に沿った形で米軍のフットプリントを再編する」ためにオースティン国防長官に世界米軍態勢の見直し(GPR)を率いるよう任命したことを受けて、その見直しに影響を与えるために出した書簡である。

 書簡が列挙している、80の国や地域に800もある海外米軍基地を閉鎖する九つの理由を要約する。

 (1)米国はパンデミックや気候危機に使えるはずの税金から年515億ドル(約5兆6千億円)をも海外基地に費やしている。
 (2)技術向上により海外基地は不要な時代遅れの産物となり、中長距離弾道ミサイルの標的ともなる。
 (3)世界中の海外基地は行き過ぎた介入主義を加速させ、受け入れ国を危険に陥れる。
 (4)海外基地はロシアや中国との軍事的緊張を招く。
 (5)海外基地を40以上もの非民主的な独裁政権下の国に置くことによって民主主義を阻害する。
 (6)海外基地は、テロリズム、過激化などの「ブローバック」(しっぺ返し)を招く。
 (7)海外基地は有毒物質の漏出、廃棄、事故などで環境を破壊する。
 (8)海外基地は米国の評判を落とし各地で抗議が起こる。地元住民は汚染、犯罪、事故の被害を受け、主権侵害が長期化する。
 (9)海外基地は米軍家族にとっても、離れ離れになったりするなど、悪影響がある。

 就任早々、中国とロシアへの強硬姿勢を明確にし、米日豪印の同盟「クワッド」の首脳会談を開き、韓米軍事演習を強行しながら日韓両国で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2+2)を行うなど、介入主義を隠さないバイデン政権に対してどこまで期待できるのかという疑念はある。

 しかし、この書簡を率いた「米軍基地がやってきたこと」、新刊「The United States of War(戦争合衆国)」の著者、アメリカン大学のデイビッド・バイン教授は、10日に開催されたウェビナーで、冷戦以降海外基地の数が1600から800に半減した事実も指摘しながら、バイデン政権下の世界米軍態勢の見直しを「歴史的なチャンス」と呼んだ。

 今回の書簡は、2014年に行った「辺野古基地に反対する海外識者103人声明」の署名者ともかなり重なる。バイン氏をはじめ、歴史学者ピーター・カズニック、元陸軍大佐アン・ライト、ブラウン大学のキャサリン・ルッツ各氏などである。左派の識者が中心だった「103人声明」に比べ、今回の書簡はより保守寄りの、不介入主義やリバタリアニズムを掲げる団体とも連携した動きであった。

 この見直しは今年の中頃に完了する予定という。沖縄を含む、米軍に占領されている世界中の国や地域から、米軍だけが世界中に軍事展開する例外主義はもう許さないという声を高め、平和的外交にシフトさせる動きを作らねばならない。
 (「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)
 (随時掲載)