「沖縄戦の認識問われる事態だ」体験者ら懸念、激戦地で進む開発に


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県に開発の届け出が出されている糸満市米須の土砂採掘予定地=3月17日、糸満市米須

 糸満市米須での土砂採掘を巡る問題で、県が開発届を出した業者に対して措置命令を出せる期限を16日に迎える。同市摩文仁から喜屋武岬に至る一帯は、沖縄戦で米軍の掃討戦で追い詰められた兵士や学徒、住民が命を落とした場所で、沖縄戦跡国定公園に指定されている。公園内で進む土砂採掘や、土砂が基地建設に使われる可能性がある状況に懸念の声が上がる。

 沖縄戦跡国定公園は霊域内の保全を最優先とし、開発行為は最小限とするよう強い規制がかかってきた。糸満市のひめゆり平和祈念資料館の普天間朝佳館長(61)は、同国定公園内での土砂採掘や基地建設への使用について「戦後、私たちが大切にしてきた慰霊や犠牲者への追悼に関わる、沖縄戦の認識が問われる事態だ」と指摘する。

 ひめゆり平和祈念資料館も同国定公園内にあり、建設前、県自然環境保全審議会から「待った」をかけられた。

 当初の展示計画では、多くの学徒らが亡くなった「伊原第3外科壕」を整備、公開するとしていた。しかし審議会から、塔と壕のすぐ後ろに資料館を建設するのは「霊域としてのイメージを損なう」「壕の崩壊の可能性がある」などの指摘が出されたという。資料館の開館は遅れ、展示計画を変更し、壕の公開をやめざるを得なかった。

 現在、沖縄戦跡国定公園内の八重瀬町と糸満市では、土砂採掘が各地で進められている。2市町にある土砂採掘場は13ヶ所。ひめゆりの先生と学徒らが「自決」した荒崎海岸のすぐ近くにある採掘場もその一つだ。

 そのそばにはひめゆり学徒らが「解散命令」後、米軍の猛攻撃で激しく弾が飛んでくる中を腹ばいで逃げ回り、同級生を目の前で亡くした山城丘陵もある。周辺での「乱開発」とも言える状況に体験者や関係者は不安を募らせる。

 普天間館長は「血肉化してきた戦争の認識を否定したり、歪曲(わいきょく)したりする動きに対し、先輩たちが何度も立ち上がってきた。こうしたことを私たちの世代が受け止め、発信しなければならない時だろう」と語る。

 県遺族連合会の宮城篤正会長(79)も南部の土砂採取は「思わしくない」との立場だ。先月24日に開かれた県遺族連合会評議委員会で自身の考えを伝え、他の遺族からも「(土砂採取に)賛成できない」との意見が出たという。

 宮城会長は「沖縄全体が戦場だった」と話し、南部に限らず県内全域での土砂採取に懸念を示した。