許斐(このみ)剛のコミックを原作とする「テニスの王子様」シリーズは、東京にあるテニスの名門中学に入った主人公の成長と活躍を描くスポーツアニメだ。ただし主人公も対戦相手も、サーブやショットに超人的な必殺技を繰り出すという、一種のバトルヒーローものになっている。またいずれのキャラも自信家でプライドが高く、態度や言葉遣いも横柄だ。
その中でもひときわ目立つのが、2006年からのOVA全国大会編に九州の覇者として登場した沖縄代表の比嘉中だ。比嘉中は全員が沖縄武術の達人という設定で、相手に初動を悟られずに一瞬で前後移動する「縮地法」を身につけている。加えて超パワーサーブのビッグバンや球筋が蛇のようにくねる飯匙倩(ハブ)といった決め技を持ち、あるいは灼熱(しゃくねつ)の太陽と潜水で鍛え抜かれたスタミナを誇る。そして沖縄の力を全国に示すという強い思いを抱いている。
だが敗者をあざ笑うなど試合でのマナーは最低で、長身の知念は小柄な相手を無視して「あい、いたの?小さすぎて見えなかったさぁ」と沖縄風のイントネーションでばかにする。また甲斐は強烈なショットをわざと相手の老コーチの眼にぶつけて「へへっ、ごめんちゃい」とせせら笑い、ヤンキー風のキャプテン木手(きて)はラケットでコートからこすり上げた小石を相手の顔めがけて飛ばす。さらにスキンヘッドの早乙女監督に至っては、風貌も言動も粗暴なヤクザ顔負けだ。
原作者の意図がどこにあるのかは不明だが、本作での比嘉中は完全なヒール役として描かれ、「わったー」「なま」「ありひゃー」「何言ってるばぁ」「したいひゃー」など、随所にウチナーグチやウチナーヤマトグチのセリフが使われる。また「ぬぅーや、くぬぅちぃびらーぐゎーや」という巨漢・田仁志(たにし)の罵倒に対して、主人公は「日本語で話してくんない?」と挑発するが、これは原作にはないアニメだけのセリフだ。ちなみに本作では新垣樽助、末吉司弥(かずや)という沖縄出身の声優2人が参加し、それぞれ木手と知念の声を担当している。
比嘉中は続編シリーズにも登場する。『新テニスの王子様』オリジナルビデオ版の「招聘(しょうへい)前夜」というエピソードでは、沖縄の海岸で比嘉中の主要メンバーがU―17日本代表合宿に招聘(しょうへい)されたと告げられる。ところが監督から「交通費はないからなんとか自力で行け」と言われ、筏(いかだ)をこいで出発しながらグチをこぼすメンバーに、キャプテンの木手が「ゴーヤーくわすよ」と決めゼリフを放つ。ここでの比嘉中の役回りはヒールではなくコメディリリーフだった。
(岡山大学大学院非常勤講師)