市民目線が変貌、「宮古の王」に 国とのパイプで影響力増大<前宮古島市長収賄・陸自配備の闇>上


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4期目を目指した宮古島市長選で落選し、支持者に頭を下げる下地敏彦容疑者=1月17日、宮古島市平良

 宮古島市への陸上自衛隊配備を巡り、千代田カントリークラブ所有の土地が国に売却されるよう便宜を図ったとして、前市長の下地敏彦容疑者が収賄容疑で逮捕された。配備計画の裏で何が行われていたのか。事件の背景を探る。

 「こっちが何も聞いてもいないのに、市民の口から市長(下地敏彦容疑者)に対する批判が次から次へと出てきた」

 今年1月、宮古島市長選挙の応援に入った保守系地方議員は、3期目の現職だった下地容疑者に対する不満が渦巻いているのに驚いた。陸上自衛隊配備計画が千代田カントリークラブ(CC)所有地になるよう便宜を図った疑いだけでなく、その他の疑惑も噴出していた。「役所も市議も市長に何も言えず、独裁状態になっていたのだろう」。議員は下地容疑者の落選を予感した。

 下地容疑者が宮古島市長に初当選したのは2009年。当時、補助金不正受給や市発注工事の競売入札妨害事件など市職員の不祥事が相次ぎ、前任の伊志嶺亮元市長が引責辞任していた。6人が乱立する選挙戦は、組織力で勝る下地容疑者が批判の受け皿となり、保守市政を奪還した。

 09年1月28日、市長就任式に臨んだ下地容疑者は、あいさつ直前に背広を脱いで肌着姿になった。「市長は頭が狂ったかと思うかもしれない。公式の場でなぜ正装しないのかと。これが市民の視線。市役所の職員に対し市民は厳しい目で見ている」と切り出し、市民目線の市政運営を訴えた。

 市長となった下地容疑者は、中央とのパイプを築き、公共事業を推進した。実績を固めた13年、野党最大会派の支持も取り込み、無投票で再選した。ある市職員は「島の発展のために作り上げた国とのパイプが、下地容疑者を公僕から宮古島の『王』に変貌させた」と振り返る。地元業者の「敏彦詣で」にも拍車が掛かった。

 別の市職員は「2期目から人事への影響も色濃く出始めた。側近はイエスマンで固められた」と明かす。14年7月には台風の特別警報発令時に市長室で職員7人と飲酒していた問題が発覚。「まさに当時の市役所の雰囲気を表している事件だった。排除されるのを恐れて注意や助言をする人もいなくなっていった」

 陸自配備計画は、下地容疑者の影響力が強まる中で具体化していった。防衛省は15年5月11日に「大福牧場地区」「千代田CC地区」の2案を配備候補地として市に正式提示し、翌16年6月20日に下地容疑者が配備受け入れと大福牧場案への懸念を表明。2期目に千代田CCへの配備計画が固まった。17年の市長選で3選を果たした下地容疑者は「形を変えた住民投票だった」と述べ、自衛隊配備計画が住民から支持されたという解釈を強調した。

 だが21年1月17日、4期目を目指した市長選は敗れた。「市民目線の市政」は「身内びいきの市政」へと変わり、多選への批判が集まっていた。 

(稲福政俊、佐野真慈)

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