米軍訓練の爪痕放置 薬きょう、ドラム缶…「こんな登録あり得ない」<世界自然遺産 宝の森の今>1


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米軍が投棄した弾丸を拾い集め、状況を説明する宮城秋乃さん=6日、国頭村(喜瀨守昭撮影)

 険しい山道を登っていくと、斜面の至る所から空包や土のう袋などが見つかる。米軍の物資であり、訓練中に米軍が投棄した可能性が高い。「こんな状態で世界遺産登録はあり得ない」。チョウ類研究者の宮城秋乃さん(42)は訴えた。

 2016年に返還された米軍北部訓練場跡地は、今回の登録地に含まれるが、今も訓練の爪痕が多く残る。宮城さんは廃棄物問題を調査してきた。今月6日、宮城さんの案内で国頭村の同訓練場返還地に入った。

 県道沿いから森に入り、鳥のさえずりを聞きながら進む。途中、イノシシが掘ったとみられる跡があった。ヤンバルクイナやノグチゲラ、リュウキュウヤマガメなどが息づく豊かな森だ。

 「ここにも落ちてる。いくら拾ってもきりがない」。宮城さんが空薬きょうなどを回収していると、イモリなどの小さな動物も姿を見せた。「自然界にないはずの物質が大量に落ちている」。宮城さんは生態系への影響を懸念した。

 森の奥に進んでいくと、赤土が露出し、切り開かれた場所が目の前に広がった。ヘリパッド跡地「FBJ」だ。

 宮城さんはこれまで、未使用や不発の空包、野戦の携帯食、照明弾、放射性物質「コバルト60」を含む電子部品、ドラム缶を発見してきた。

 ヘリパッド跡地「LZ―1」では、返還後に投棄されたとみられる廃棄物も見つかった。返還後も訓練が継続されているのではないか。宮城さんはその可能性を指摘した。19年、返還地に米海兵隊のヘリが「誤着陸」している。

 廃棄物の多くはいまだに回収されていない。宮城さんは弾薬を見つけると県警に連絡していたが、当初は回収していた県警も19年10月ごろから取り合わなくなったという。

 宮城さんは現状を変えたいと、見つけた廃棄物を北部訓練場のゲート前に置き、米軍に引き取りを求める活動をしてきた。しかし、米軍や政府が積極的に廃棄物撤去に乗り出す姿勢を見せることはなかった。

 一方、県警は今年6月、廃棄物をゲート前に置き通行を妨害したとして威力業務妨害の疑いで宮城さん宅を家宅捜索し、パソコンや携帯電話を押収した。「自然遺産の実態を暴こうとする声を封じ込めようとしているのか」。宮城さんは憤る。

 FBJ付近の斜面では、人工的に積まれた土のう袋がむき出しになり、今にも崩れ落ちそうになっている。「このまま登録されたら『米軍基地があるから自然が守られてきた』というデマがさらに広がってしまわないか」

 宮城さんは廃棄物が残る森を見詰め、ため息をついた。自然遺産登録地の横たわる北部訓練場では、今も野営訓練やヘリの離着陸が頻繁に繰り返されている。

 (長嶺晃太朗)

ヘリパッド跡地=6日、国頭村(小型無人機で撮影)

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 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録が正式決定した。「世界の宝」として認められた各地の今を、現場から見つめて今後の課題を探る。


 

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