江戸時代を舞台にした渡辺信一郎監督の『サムライチャンプルー』(2005)は、セリフや風俗描写の時代考証をあえて無視し、音楽にもヒップホップ系を多用している。文字通りチャンプルーな時代劇アニメだが、その主人公の一人が琉球出身という設定だ。
琉球の小さな流人島生まれで両手両足に二本筋の入れ墨を持つムゲンと、師匠殺しの汚名を着せられて一門から追われる身となったジン。偶然出会った2人はいったん刀を交えるが、悪代官の手で打ち首になりかけた騒動の後、茶屋で働いていた若い娘・フウの旅に同行する。彼女はヒマワリの匂いがする侍を探すのだという。
無宿者2人と女1人の道中モノとくれば、西部劇のロードムービー『明日に向かって撃て!』(1969)を思い浮かべる人も多いだろう。実は渡辺監督、本作以前に『カウボーイビバップ』(1998)という西部劇風味の近未来スペースアクションも手がけている。また渡辺監督に影響を与えた勝新太郎が高倉健と共演した『無宿(やどなし)』(1974)も、男2人に女1人の組み合わせだった。加えて本作のキャラクター設定や描線のタッチには、モンキーパンチの「ルパン三世」からの影響もうかがえよう。
さて、すご腕の柳生侍3人を一瞬で斬り倒す天才剣士のジンは、物静かなインテリヤクザ風でダテメガネを掛け、剣術は道場仕込みの正統派だ。これに対して異国仕様の剣を背負うムゲンの立ち回りはトリッキーで、時にブレイクダンスの動きも見せる。加えて言動はチンピラそのもの、ボサボサ頭でピアスをつけ、短パンをはいている。ムゲンと幼なじみのムクロやコザも身なりは同じく異国風だ。
ただし、この3人の間に同じ島の生まれという仲間意識は成立しない。かつてムゲンは、薩摩の黒糖船を襲った際にムクロに裏切られ、処刑されかけた。そして今また御用船襲撃をめぐってムクロにはめられ、さらにコザはムクロもムゲンも欺こうとする。むしろムゲンは、松前藩に村を焼かれ、家族を殺されたアイヌのオクルに共感を示す。
ムゲンは第1話で、悪代官のバカ息子が持ち出す世間の常識を「知ったこっちゃねぇ、こちとら琉球生まれだ」と一蹴し、相手をビビらせていた。ムゲンを型破りな前科者として描くことで、その生まれ島は幕藩体制下の抑圧と矛盾が吹き寄せる場所と位置づけられている。島の名は具体的に示されないが、14話では溺死しかけたムゲンの前に宮古島のパーントゥ神に似た死神が現れ、朝崎郁恵のうたう奄美民謡「おぼくり~ええうみ」が切々と流れる。
(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)