「この芝居はみんなで闘い(相撲)を盛り上げないといけない。隙間ができないよう頑張って」。26日の夜、那覇文化芸術劇場なはーとの大スタジオで、狂言師の深田博治(ふかたひろはる)さんが熱心に市民を指導していた。12月に上演するこけら落としの狂言「唐人相撲(とうじんずもう)~なはーと編~」に向けた稽古だ。狂言師と琉球芸能実演家が共演し、一般公募で選ばれた市民も出演する。公募で選ばれた宮里陽(みなみ)さん(12)、晴太さん(9)兄弟は「地元の劇場のこけら落としに出られてうれしい」「(空手やアクションなど)こんなことができるんだと見せたい」と意気込んだ。
劇場は公演をするだけでなく、人々が集う「新しい広場」として、地域の発展を支える役割も担う時代になった。2012年に施行された劇場法では、劇場は「地域社会の絆の維持および強化」や「共生社会の実現」に資する事業も行うと明記されている。
なはーとも(1)市民参加型の作品創造(2)国内外の芸術に触れる鑑賞事業(3)学校や福祉施設などへの芸術普及(4)実演家や文化芸術に関わる人々の育成―などに取り組む。市は開館に向けて事業の企画などを担う専門職を採用し、体制を強化してきた。
開館準備業務総括の崎山敦彦さんは「社会包摂型の劇場として、市民みんなでつくりあげる事業をしていく。コロナ禍という困難の中でも参加する意義を重視している」と話す。
一方、劇場整備や運営に相応のコストが掛かっているのも事実だ。なはーとの管理運営基本計画によると、年間の支出の試算は人件費や維持管理費など約5億円。支出から事業や使用料の収入を差し引いた約3・9億円について、市は「文化投資額(文化芸術を通した人への投資)」と捉えている。ただ文化投資の効果は数字で表しにくく、どう分かりやすく評価するかも課題だ。経済波及効果は約10・4億円と試算している。
管理運営実施計画では、市民はサポーター組織として運営に加わり、さらに文化行政審議会の市民委員として事業の評価や提言にも参画するとしている。現状では市民から「劇場が何を目指しているのか、よく分からない」との声も聞こえる。なはーとを拠点に展開する文化施策を教育、福祉、経済などとリンクさせながら、劇場の価値を広く理解してもらえるか。どんな劇場にするというビジョンを市民と共有できるかが今後の鍵となりそうだ。
(伊佐尚記)