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ガイドデビュー、何よりもまず準備 沖縄通訳案内士会会長・マーシュゆかり<仕事の余白>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
マーシュゆかり氏

 ガイドデビューの依頼は突然やってきた。長崎に行くはずのクルーズ船が悪天候で中城湾港に入港することになった40時間前だ。「出来ます!」と返信した直後から準備に追われた。車窓トークのネタがもつか不安だったからだ。

 当日、港に行ってみると英語と中国語の混載ツアーだと知らされた。頭が真っ白になった。前夜の準備段階までは、ショートトピックをつなげば片道35分も大丈夫だと思っていたが、言語の違うガイドがマイクを交代しながらの案内になるなんて。実際、話したい車窓のタイミングでマイクが回ってこなかった。心は大泣きだが顔で笑った。ガイド業務は一期一会。必死に言葉をつないだ。

 首里城見学が終わりアウトレットで買い物タイム。不出来を穴埋めしようと、私はキャンディーを買い、バスに戻ってきたゲストに差し出した。が、あろうことか出発間際にも関わらず、キャンディーを土産にしたいと数人がバスから降りて再び店に行ってしまった。中国語ガイドからは「余計なことをしたわね」という顔でにらまれ、時間厳守で戻っていたゲストはなぜ待たせるのかと不満顔に。嗚呼(ああ)。瞬発的に「歌だ!」と閃(ひらめ)いた。ユイマールの歌をアカペラで披露し、ゲストにも合唱してもらい雰囲気チェンジに努めた。次第に車内に笑顔が戻り事なきを得た。「偶然は準備の出来ていない人を助けない」という名言を知ったのはこのずっと後だった。