<クロストーク>脱貧困へ登壇4氏が議論 沖縄版幸福のイメージを 給与増の在り方も模索


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 国際社会が進めるSDGs(持続可能な開発目標)の推進に向け、那覇市の琉球新報社で実施した「OKINAWA SDGs プロジェクト」(OSP、事務局・琉球新報社、うむさんラボ)第2回カンファレンスでは「県経済から脱貧困を考える」をテーマに糸数温子さん、花牟礼真一さん、真栄田一郎さん、吉永亮太さんが議論した。参加者らは議論の後にグループに分かれ、貧困解決に向け自分にできること、課題などを話し合った。

(左から)花牟礼真一さん 真栄田一郎さん 糸数温子さん 吉永亮太さん

 司会 万国津梁会議で議論されている稼ぐ力とは。

 花牟礼さん 一番重視しているのは沖縄版幸福のイメージ。沖縄の幸せ感があり、イメージ化することが大切だ。県民や経営者が共感し、日本や世界をリードしているというビジョンがあれば良いと思う。そのためには、俯瞰(ふかん)的施策やインフラ整備など、産業間横断的なインフラ整備の構築が稼ぐ力の土台になる。収入増加施策設定も産業ごとに状況が違う。労働生産性が低いが、従業員が多い産業がある。非正規雇用が多いことも一因だが、給与が上がれば全体に影響する度合いが大きくなる。産業ごとにきめ細やかな対応をしなければならない。

 司会 経営者として、給料をきちんと払おうという姿勢について。

 真栄田さん 会社の経営理念に「社員の幸せを求める」と書いている。経営理念は会社の存在意義であり、大切なことだ。実践しなければうそつきになる。一方で永遠のテーマであり、目指すべき方向性だからこそ、達成したという会社はないと思う。給料は毎月出る。固定給で「給料を上げる」と、何の見通しもなく約束することは難しい。しかし、上げると約束した上で、会社の方向性を提示する。みんなで努力すれば目標も達成できる。そのためにも、会社の数字を社員にも公開する。現在の状況を知ることで、社員のやる気にもつながる。

 花牟礼さん 経営者やリーダーの役割は従業員の心に火をともすことだ。従業員10人と経営者1人の場合、経営者が2倍働くよりも、従業員が110%以上働いた方が組織としての力も大きくなる。いかに火をともすかというと、ビジョンを示したり、経営理念を実践したりすることだ。それが給与の増加にもつながる。県も同様に、ビジョンを作り、経営者や県民を共感させ、火をともさなければならない。

 司会 糸数さん。3年で月の所得を1万円上げるとする県の目標について、遅いと思うのはなぜか。

 糸数さん 沖縄は子どもの貧困が2016年から取り上げられてきた。一方で、以前から若い人たちの未来が見えないような働き方がワーキングプアを引き起こし、労働力の流出にもつながる。吉永さんが示した月額給与の表は平均値だった。総体的貧困率は可処分所得の中央値の半分以下なので、中央値を比較しなければならない。23万円は平均であり、高所得層の金額に引っ張られていると思う。さらに、正規雇用者だけの平均値を上げようとすれば、低所得者層は下に下がったままで、豊かな層だけが上に上がり、豊かになったと思われかねない。現実は変わらず、分断が生まれることを危惧している。そうならないようにみんなで考えていきたい。

 吉永さん 最初の目標値は全国に追いつくことだった。しかし、理由を考えると「全国がこうだから」という理由しか答えられなかった。課題を解決した先に沖縄の成長があると考えており、一歩一歩進めていくために設定した。現状として3年としたが、企業が目標を掲げ、実践してみて難しければ次年度に間違いを修正するサイクルにできれば、どんどん進めることができると思う。目指すべき社会は、誰かにしわ寄せが行かない社会の実現だと思う。できることを一つ一つ実現していくことが大事だ。


登壇者

 糸数温子さん(いとかず・あつこ) 日本学術振興会特別研究員/一般社団法人daimonファウンダー

 花牟礼真一さん(はなむれ・しんいち) かねひで総合研究所代表取締役/沖縄経済同友会委員/稼ぐ力に関する万国津梁会議委員

 真栄田一郎さん(まえだ・いちろう) マエダ電気工事株式会社代表取締役/県中小企業家同友会代表理事

 吉永亮太さん(よしなが・りょうた) 県商工労働部マーケティング戦略推進課
 


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