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特別な目的に絞る旅行「SIT」 観光客の思いに寄り添う 沖縄通訳案内士会会長・マーシュゆかり<仕事の余白>


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マーシュゆかり氏

 観光客の入国再開はまだ先になりそうな中、来年4~10月に15本のSpecial Interest Tour(SIT)の予約が入ってきたため、資料をまとめ始めた。ガイドできる日が来るかもしれないという希望の光は、私の通訳ガイドとしてのモチベーションを保ってくれる。SITとは特別な目的に絞った旅行のことで、アニメの聖地巡りや美術鑑賞など多岐にわたり、沖縄なら長寿、戦跡、自身のルーツ探しなどがこれにあたる。

 多くのSITガイドをしたが、特に2組のアメリカ人の戦跡巡りが記憶に残る。父親が戦った地を特別な思いを胸に訪れた一人の男性と、1970年代に嘉手納に住んでいたご夫妻だ。個人手配のSITの場合、事前のメールやりとりで概要だけを伝えられ、後は当日、ゲストに詳細をヒアリングして案内を開始するのが常だ。限られた時間で、彼らの思いに寄り添いながら時間軸の対比で話したり、公文書館のアーカイブ写真を見せながら話したりすることもある。ゲストが話してほしいことに気付いて話せる余裕が大切になる。

 私がもう一つ大切にしているのは、しゃべらない時間も提供することだ。喜屋武岬で静かに海を見つめる男性を、しばらくの間、数歩下がって待ったり、外人住宅を懐かしそうに眺めながらも沖縄がこんなにも復興したことが嬉しいと話す夫婦の会話に耳だけ傾けたりなどだ。来春はどんな出会いがあるだろう。ワクワクしながら準備を進めよう。