戦跡の文化財指定、200人以上の証言収集…一括交付金も活用した中城の取り組み<ふさがれる記憶…壕の保存・活用の課題>4


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161.8高地陣地の戦闘指揮所跡内で「木材や馬車軌道のレールが埋め込まれていて、沖縄戦に備えて急いで造ったとみられる」などと説明する中城村教委の渡久地真さん=1月、村北上原(許可を得て撮影)

 中城村はこれまで約10年間で集中的に沖縄戦の調査と戦跡の文化財指定を進めてきた。2014年には「161・8高地陣地」を初めて村の戦跡として文化財に指定、整備した。200人以上から証言を収集するなど、精力的に地域の戦争史の掘り起こしと発信に取り組んでいる。他市町村に比べ、証言収集が進んでいなかった事情もあり、一括交付金の活用をうまく重ね合わせた。

 村は13年度から戦争体験者の聞き取り調査を始めた。「調査はむしろ遅過ぎた」と村生涯学習課文化係長の渡久地真さん(51)。長年、予算を村財政当局に要望してきたが、一般財源を充てることはかなわなかった。

 12年度に一括交付金制度が創設され、これに着目。調査費を求めたところ、要望額が付いた。以降も毎年要望し、取り組みを拡充した。

 20年にガイドブックやマップを発行。特定した村内77カ所の戦争遺跡に住民がどのように関わったのか、証言を掲載した。

 村による証言収集と日米の資料の重層的な調査は、新たな史実の掘り起こしにもつながっている。沖縄戦の「最初の激戦地」とされる嘉数高台での戦闘より前に、村北上原の「161・8高地陣地」で激しい戦闘があったことが分かってきた。

 この陣地での1945年4月5日の戦闘には、防衛隊として現地召集された住民の男性も参加。部隊から区長への命令もあり、女性18人が看護要員として動員されていたことも分かった。

 文化財指定のメリットについて渡久地さんは(1)乱開発を防ぐ(2)補修などに一括交付金を含めた補助金を使える(3)紹介文の掲示で活用できる―などを挙げる。周辺に巡らされた塹壕(ざんごう)跡の整備は技術的課題もあり、未着手だが、丘の頂の戦闘指揮所は一括交付金で内部を補強し、周辺を舗装するなど整備を終えた。

 21年度末、沖縄戦調査の成果として村史「証言編」「資料編」を発刊する予定。渡久地さんは「体験者が少なくなり、調査は最後の機会。中城でどのような戦いがあり、被害があったのか、村民に知らせたい気持ちがあった」と振り返る。

 多くの取り組みができたことについて「取り組んでいるうちに周りの評価が上がった。村長らの理解があり、優先的に予算を割いてもらえた」と話す。今後は「戦跡の活用が課題」と言い、戦跡ガイドの育成も見据えている。
 (中村万里子)