新型コロナウイルスの流行第6波は高齢者施設にも猛威を振るっており、高齢の利用者が施設内で「みとり」という形で亡くなるケースも県から報告されている。ただ、クラスター(感染者集団)が起きた施設では従業員の感染でケアに当たる人員も減るため、穏やかにみとりを行える体制は万全ではない。
2~3月にクラスターを経験し、2人の入居者が亡くなった南城市の高齢者施設「はっぴー」では、最後の時に家族が立ち会えた入居者は1人だった。管理者の城間郁汰さん(27)は、「利用者にも家族にとっても寂しい思いはさせたくない」と、経緯を語った。
南城市玉城前川で有料老人ホームとデイサービスを提供する「はっぴー」では、2月11日から3月中旬まで入居者など計24人が感染した。
県対策本部の支援の下で通常業務を減らして看護に当たる一方、入居者の入浴やおむつ交換の回数が減ることに迷いや不安もあったが、出勤者の精神状態やシフト管理はぎりぎりの状態。備蓄していた防護服や手袋も1日数百個単位で消費していく中、城間さんの気持ちも「燃え尽きそうだった」という。
そんな中、90代男性の容体が急変。3月1日午後に家族と面会する予定だったが、同日昼ごろに部屋を訪れるとすでに亡くなっていた。長年関わった入居者を一人で逝かせてしまったことに、城間さんは「コロナで亡くなる方が出ることを想定していなかった」と後悔したという。
感染後に亡くなった場合、遺体を納める「納体袋」に包まれ、小窓がない棺おけに納められた後、テープで密閉される。家族とともに自宅に戻ることはできず、そのまま火葬場へと運ばれていく。こうした過程にも胸を締め付けられた。
クラスターは3月1日に収束したが、7日には再び院内感染が発生し、80代男性の容体が悪化した。医師や家族と調整し、17日に外から窓越しながら面会の場を設けた。ただ、18日夜には呼吸状態が思わしくなくなったため、家族に連絡しながら「家族が来るまで頑張ってよ」と声を掛け続けた。男性の家族が部屋に駆け込んで呼び掛けると、男性はふっと目を開いて見詰めた後、静かに息を引き取ったという。
城間さんは3月25日に南城市であった、県医師会主催の感染症予防研修会に出席し、クラスターの状況を報告した。
事前準備や対策委員会など設置の重要性を説明しながら、「亡くなった後に家族が会える時間は限られているからこそ、入居者も家族も一緒に過ごす時間が必要だ。私たちが経験したように、それぞれの施設ならではのみとり方があることを伝えたい」と、訴えた。
県高齢者福祉介護課によると2020年7月から22年3月18日まで、感染が確認された高齢者施設は延べ1134カ所で、感染者数は延べ4235人となっている。
(嘉陽拓也、写真も)
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