「慰霊の日」の23日に開かれた沖縄全戦没者追悼式に、2019年以来3年ぶりに首相が参列した。玉城デニー知事と岸田文雄首相は非公開で会談し、県側は米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡る対話など基地問題への対応を求めた一方、国側が強調したのは新型コロナウイルスのワクチン接種の促進。議論はすれ違った。
県は沖縄戦跡国定公園内の糸満市米須の鉱山開発を巡り、総務省の公害等調整委員会(公調委)が提示した鉱山開発を容認する合意骨子案の受け入れについて、最終調整している。同所などで採取された土砂は沖縄戦戦没者の遺骨が含まれ、基地建設に使用される懸念は根強く、遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松代表は式典の会場周辺でハンガーストライキを行い、抗議の意思を示した。
逆効果?
今年の式典は、参院選の公示翌日となった。岸田首相は22日に自民党総裁として、東日本大震災の被災地である福島県で第一声を発した。翌23日午前には東京を発ち、沖縄に到着。式典参加後すぐに沖縄を発つなど、滞在はわずか約3時間の強行軍だった。
当初は「国政与党候補の選挙応援に入るのでは」との見方もあったが、式典参加のみにとどまった。ある自民党関係者は「選挙応援の要請はしているが、慰霊の日に合わせての応援では逆効果になりかねない」と打ち明ける。
23日の式典中、岸田首相のあいさつ時には「戦争を呼び込むな」「帰れ」と会場の外からやじも飛んだ。式典に参加した県政与党県議は「南部土砂問題、辺野古新基地に『こうした隠れた気持ちがある』と首相にも伝わっただろう」と語った。
意識のずれ
今回の平和宣言で玉城知事は辺野古新基地建設の「断念」に3年ぶりに言及した。玉城知事は式典終了後、記者団に「方針を堅持するということで、新基地建設の断念と普天間飛行場の一日も早い危険性除去という形でしっかり盛り込んだ」と強調した。
他方、3年ぶりに参列した岸田首相との非公開会談で玉城知事は新基地建設問題のほか、人体への有害性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)汚染が基地周辺の水源などで検出されていることから、在沖米軍基地への立ち入り調査の実現や嘉手納基地への外来機飛来抑制などについて、直談判した。
だが、国側は新型コロナ対策を重視。「観光客も増えてくると思うので、一層頑張っていただきたい」と県に求めた。県側の基地問題などの要請はかわされた格好だ。玉城知事は記者団に「(国側の反応は)『こちらからの意見を承った』ということだと思う」と語った。県と国の意識のずれが改めてあらわになった。
(塚崎昇平、安里洋輔)