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魔法の言葉 琉球通運代表取締役会長・新垣直人<仕事の余白>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄には魔法の言葉がある。

 「今日どうして遅刻したの?」と従業員に聞くと、「だからよー」と返ってくる。で? どうした? と続けると、「雨が降ってきてからさぁ、道も混んで…」永遠に続く。模合で立て替えたお金を「貸したカネ持ってきた?」と聞いたら、「だからよ~」って返ってくる。

 東京で約30年間仕事をして、数年前に地元に戻った私は、この様に会話にならない受け答えに戸惑いながら、まじめに相手を問いただす時期もあった。沖縄ではこのやり取りがビジネスにおいても使われている。ビジネスでこのやり取りは果たして良いのだろうか? と疑問に思ったこともあった。聞かれたことに対してはその内容をしっかり把握し、適切な文章で返す。それがビジネスの基本だと思っていたからだ。

 しかし、慣れるとこれ以上に楽な言葉はない。そしてビジネスにおいても通用するのだ。気まずい質問に対するはぐらかしや、喜怒哀楽までもこの一言で表現できてしまう。まさに魔法の言葉なのだ。

 NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」でも使われているシーンがあった。しかし、このやり取りが理解できるのは沖縄の人だけではないのだろうか。魔法の言葉「だからよー」の中には、一言では言い切れない心が入っているのだと思う。相手を傷つけない、気分を害さない、思いやる気持ちが含まれているのだ。この魔法の言葉の奥深さを全国に教えたい。そしてそれこそが沖縄の思いやりの心なのだと知らせたい。