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デフレのコスト 日本銀行那覇支店長・飯島浩太<仕事の余白>


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飯島 浩太(日本銀行那覇支店長)

 私の連載は今回で最後。拙い文章にお付き合いいただいた皆様に心から感謝したい。最終回の話題は「物価」について。現在、日本を含め主要先進国の中央銀行は、消費者物価指数の前年比上昇率で2%を「物価安定の目標」としている。その理由は、第一に統計の性質上、消費者物価指数が実態よりも高めに出ること、第二にインフレ下では金利が高くなるため、不況時に金利を引き下げて景気を刺激する余地が確保できること。以上から2%の物価目標は世界標準となっている。

 そのうえで、なぜ2%を目指すのかを考えるには、逆に、緩やかなデフレ(物価下落)の何が問題なのかを問うことが有益だ。渡辺努東大教授は近著『物価とは何か』で、グリーンスパン元FRB議長の「デフレが社会に定着すると、企業は、少しの値上げでも顧客が逃げてしまうと恐れ、原価が上昇しても価格に転嫁できなくなる。そうなると企業は前に進む力を失ってしまう」という趣旨の発言を紹介している。コスト上昇を転嫁できない企業は、投資に消極的になる。投資には、機械などの設備だけでなく、人材への投資も含まれる。すなわち、賃金も上昇しにくくなる。賃金が上昇しなければ、人々の購買力が高まらないため、価格が上げられないという悪循環に陥る。これがデフレのコストである。

 だからこそ、企業収益の改善と賃金の上昇を伴いながら、緩やかに物価が上昇していくという経済状況を実現することが大事なのだと思う。