【識者評論】「地方自治の保障」語らず


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本多滝夫(龍谷大教授)

 地方自治法は、自治体の処分について国が下した裁決を、地方自治体が不服として「関与取消訴訟」を提起することを認めていない。確かに、処分を取り消した裁決が再び訴訟で争われるのは、処分の対象者にとって愉快なことではない。今回の最高裁判決も、地方自治体に取消訴訟の提起を許すことは、処分対象者の権利利益の簡易迅速で実効的な救済との関係で問題だとする。

 しかし、関与取消訴訟を認めていない地方自治法には憲法違反の疑いがある。通常、国民が自治体の処分について国に審査請求することはできない。国の事務を地方自治体が担う「法定受託事務」についてのみ認められる例外的な制度だ。つまり、国民の権利救済というより、審査請求をきっかけとする、特別な国による関与の仕組みという性格が強い。そして、自治体がした処分を国が取り消す裁決は、紛れもなく自治権を侵害するものだ。

 「地方自治の保障」とは司法による保障も含意する。憲法違反とならないためには、通常の行政訴訟である抗告訴訟なら自治体は裁決について争うことができると認めなければならない。今回の抗告訴訟はこれを問うものだった。

 ところが、最高裁は、司法による地方自治の保障について何ら語ることなく、関与取消訴訟を提起できない理由をそのまま今回の抗告訴訟に当てはめてしまった。これが最高裁の理論水準なのかと思うと、怒りを通り越して情けなさで胸がふさがれる。

 福岡高裁那覇支部では、設計概要変更の不承認に対する是正指示の取消訴訟が結審している。地方自治の保障の理にかなった判決を期待したい。
 (行政法)