教職員の給与には管理職による評価が色濃く反映される。地方公務員法の改正などにより、沖縄では2017年4月から給与への反映が始まった。教える仕事は評価することができるのか。導入前から現場では疑問があった。評価への影響を気にして「意見が言えず、活発な議論ができない」と悪影響を指摘する声もある。一方、教職員を代表して県と直接交渉できる教職員組合は組織率が落ち、県との交渉にも影を落とす。働く環境の改善には当事者である教職員の声が必要だが、捉えづらい状況もある。
全県が導入へ
教職員人事評価システムの評価結果は、昇給のほかボーナスや昇任、配置転換などに反映される。文部科学省によると、評価結果の具体的な反映方法は最終的に都道府県に権限があり、給与への反映について「期待している」が「義務ではない」(文科省担当者)という。ただ、人事評価結果の活用が地方公務員法で促されているため、ほとんどの都道府県が給与と結び付けている。
文科省が2022年4月1日時点でまとめた「人事評価システムの取組状況(教諭等に対する評価)」によると、秋田、愛知、鳥取、宮崎、鹿児島の5県が評価を給与に反映させていなかった。しかし本紙の取材によると、宮崎と鹿児島は既に反映を開始した。
鳥取は管理職に対してのみ実施していて、教員への導入も検討している。愛知も県立学校の管理職で導入していて、課題を検証しながら教諭についても「順次進める」と説明した。
秋田は給与への反映はしておらず「評価制度が定着してから(給与反映は)検討する」と取材に答えた。
給与に影響するため、教職員からは「意見を言いづらい」と導入前から声が上がり続けている。県教職員組合(沖教組)、県高等学校障害児学校教職員組合(高教組)は組合員への調査結果を基に、県教育委員会へ改善や廃止を訴えてきた。
教員らは、評価基準が曖昧で具体性に欠けていると指摘する。数十人の教員がいる大規模校では、最終評価者の校長が全ての教員の教育活動を適切に評価できるのかと疑問もある。教育の成果は全てが目に見える形で表れるわけではなく、評価のタイミングに合わせて年度内に指導による成果が確認できるということでもないため、「教育現場になじまない」という意見が強い。
弊害
評価システム導入の狙いの一つが「学校組織の活性化を図る」だ。だが、「評価が平等ではないのでは」といった現場の疑念が、学校組織の結束力に悪影響を与えていることをうかがわせるデータがある。
沖教組が21年9月の調査で評価システムについて「職場の協働体制を高め学校組織の活性化に役立っていると思うか」と聞いたところ「いいえ」48%(341人)、「どちらともいえない」43%(310人)。「はい」は9%(64人)にとどまった。
高教組の22年7月調査でも「職員間の協力・協働体制が強くなったと思うか」の問いに「いいえ」が63.8%(74人)、「どちらともいえない」31.9%(37人)。「はい」は4.3%(5人)だった。
両組合の調査には「管理職と対立すると、人事評価に影響が出るのではと、意見も言えなくなる」「管理職の主観による評価で一貫性があるとは思えない」などといった声が寄せられている。
これまでの取材でも、職員会議などで教員が意見を出し合う場面が減ったとの声がよく聞こえた。管理職の方針に反対したり、意見したりしたことが実際に低評価につながったのか、当事者が確認することは難しい。しかし、疑心暗鬼に陥り、口をつぐんで議論を避ける傾向が強まっていることは確かだ。
(嘉数陽)
<用語>教職員人事評価システム(人事評価制度)
2000年、当時の小渕恵三首相が設置した私的諮問機関の教育改革国民会議が「教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる」と提案。翌年12月に閣議決定された公務員制度改革大綱で、能力・職責・業績を反映した新給与制度導入の考え方が示され、教育公務員である教職員にも人事評価、給与制度の見直しが求められるようになった。
14年に改正された地方公務員法の第23条第2項は「任命権者は、人事評価を任用、給与、分限その他の人事管理の基礎として活用するものとする」と規定、人事評価を給与へ反映させるよう促している。