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戸惑う保護者に校長がとった行動 通知表廃止で波紋も「やりがい」の理由<先生の心が折れたとき>第3部(7)神奈川の香川小(下)


戸惑う保護者に校長がとった行動 通知表廃止で波紋も「やりがい」の理由<先生の心が折れたとき>第3部(7)神奈川の香川小(下)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
通知表廃止後、5学年ではテストなどをファイルにつづり、定期的に持ち帰って子どもと保護者が一緒に学習を振り返れるようにした。保護者がコメントを記入する欄もある

 通知表を廃止した2020年度の夏、保護者説明会で香川小学校(神奈川県茅ヶ崎市)の國分(こくぶ)一哉校長は保護者の戸惑いに直面した。「大声で大反対する人はいなかったが、意見を述べた人で肯定的な人は一人だけ、後は全て反対だった」

 弱気になった國分校長は、保護者の要望を受けて通知表の代替物を作らないかと教職員に提案した。「それなら自己評価を大切にした物を作ろう」と、児童に学習記録を振り返らせて自己評価を書かせることにした。しかし自分で自分を評価し、それを文章にすることは児童にとってとても難しかった。

 児童のやる気につながらず、保護者に学校での子どもの様子を伝える物にもなっていない。12月に改めて話し合い、代替物を出すこともやめた。

 戸惑う保護者に対しては、國分校長が自ら手紙を書いたり電話をしたりして、廃止の意図を説明し理解を求めた。

 廃止から3年がたった23年3月13日。年度末の香川小では、普段通りの仕事をする教職員の姿があった。「正直、日々の仕事は増えた部分もある」と5年担任の大町奈津美さん(28)は話す。「子どもの日々の良さを本人に伝えるため、以前よりノートにコメントを書くことが増えた。それでも納得いかない仕事をしているわけではないから、負担感はそんなにない」と話す。

 大町さんの学年では現在、児童ごとにファイルを作り、取り組んだ課題やテストをつづってこまめに持ち帰らせ、子どもと保護者が一緒に学習を振り返れるようにした。テストは丸つけはするが点数はつけない。「間違えた箇所と、その原因が確認できればいい」。教員の工夫が光る。

 沖縄では教職員人事評価システムにより、評価が給与に影響することを懸念して「意見を言いづらい」という声もある。香川小には「評価は別に気にしていない」と話す教員が多い。1年担任の三堀あづささんは「話し合うことで、教員にとっても子どもにとってもいい環境を目指せる。今は教育のやりがいを感じながら仕事ができている」と笑顔を見せた。そして「みんなで話し合ったことの責任を校長が取ってくれるのもいい」と話す。

 一方の國分校長は「大変だけどね」と苦笑いする。「でも責任を取るのが管理職の役割だから。通知表廃止などを通して、先生たちがみんなで話し合い、学校を良くしていくという成功体験ができた。働き方改革について話し合うような時も、この経験が生きていくと思う」と期待を込めた。